小池知事も、かつて「排除」という言葉で一気に勢いを失ったことがあるが、「和をもって尊しとなす」民族性には向かないのだ。私も同様の言葉で失敗したことがあるが、「白か黒かの選択」を迫ると、日本では恨みを買って、負のエネルギーに転換されることが多い。私自身、ここまでよく生き延びてきたものだと思う。

国政での自民党批判を都知事選に持ち込んだが、日本国民には、「暗黒の民主党政権」のイメージが色濃く残っている。自民党はけしからんが、旧民主党のような政治はもっと困ると考えている人が多い。論点も「若者の収入を増やす」「神宮外苑の再開発の見直し」というのは受けがよくない。

前者は若者を意識したものだが、小池知事も子育て支援をしていたのでインパクトが小さかったうえに、生活の苦しい高齢者を敵にしてしまった。後者の外苑再開発問題は、大半の都民にはどうでもいいことだ。

自民党も旧民主党にも嫌気をさしていた人にとっては、特に若者には、「政治屋断罪」の言葉が響いたのだろう。石丸氏第2位の大きな要因は、若者や無党派層の票を大きく引き寄せたことだ。大阪で橋下徹氏が脚光を浴びた時に重なるものがあった。

とはいえ、どんな首都にしたいのかという議論はほとんどなかったように思う。若者も大事だが、東京といえども高齢者人口は増え、介護や医療の問題は大きい。介護離職率は以前よりも高くなっている。アルバイトの給料が高くなれば、肉体的精神的負担が大きい介護従事者の離職が増えて当然だ。

23区と離島・奥多摩との医療格差も大きい。健康を守る・生活を守るうえで、医療・介護の課題があまり話題にならなかったのは残念だ。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。