ニシオンデンザメの長寿の秘密を発見!

代謝(metabolism)とは、あらゆる生物が生きていく上で絶対に欠かせない体の働きです。

具体的には生命活動に必要なエネルギーを作ったり、細胞の成長や修復などを担う一連の化学反応を指します。

そしてほとんどの生物において、代謝速度は年齢とともに低下していくものです。

これにより、エネルギー生産の低下、細胞の修復の遅延、および細胞を傷つける恐れのある有害物質を除去する能力の低下が起こります。

つまり、代謝速度の低下は「老化」の一側面でもあるわけです。

しかし、ニシオンデンザメのように500年も生きられるなら、加齢にともなう代謝速度の変化が起きていない可能性があります。

そこで英マンチェスター大学の研究チームは、グリーンランド沖にあるディスコ島付近で捕獲したニシオンデンザメ23匹から筋肉の組織サンプルを採取し、年齢ごとの代謝レベルを調べてみました。

年齢にともなう代謝レベルの変化を調査
年齢にともなう代謝レベルの変化を調査 / Credit: canva

対象となったサメの年齢は60〜200歳の範囲であることがわかっています。

そしてチームは、筋肉の代謝活動に関わっている5種類の酵素を特定し、年齢や水温によってどんな変化が見られるかを測定しました。

その結果、驚くべきことにニシオンデンザメの代謝レベルは加齢によってほとんど変化していないことが明らかになったのです。

60歳でも200歳でも代謝速度に変わりはなく、同じレベルで活動を続けていたのです。

つまりニシオンデンザメは年を取っても代謝速度が落ちることなく、私たちが経験するような老化反応を起こしていないことが示されました。

研究主任のユアン・カンプリソン(Ewan Camplisson)氏は「何歳になっても代謝が安定していることは、他の動物のように老化しないことを意味しており、それが彼らの長寿の理由の一つと考えられる」と話しています。

水温が上がると代謝が活発に

その一方で、ニシオンデンザメの代謝に関わる酵素は、水温が高くなることで大きく活性化することも示されました。

カンプリソン氏はこれを受けて「暖かい環境で代謝活動が活発になるということは、ニシオンデンザメが暖かい環境に追いやられた場合、代謝が大幅に増加し、ライフスタイルが変化する可能性が高い」と指摘します。

要するに、ニシオンデンザメは温暖化による海水温上昇の影響をもろに受けてしまう恐れがあるのです。

温暖化の影響をもろに受ける恐れも
温暖化の影響をもろに受ける恐れも / Credit: canva

これまでの調査で、地球の海水温は2100年までに平均2〜4度も上昇することが予想されています。

それに加えて、ニシオンデンザメが生息している北極海域は、世界の海の3倍のスピードで水温上昇を起こしているのです。

不老長寿のニシオンデンザメも温暖化によって早死にするようになる危険性が懸念されます。

そうした最悪のシナリオを阻止するためにも、カンプリソン氏はニシオンデンザメの長寿の仕組みをより詳しく明らかにし、保護活動に役立てたいと考えています。

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参考文献

Secret of why Greenland sharks live so incredibly long finally revealed
https://www.livescience.com/animals/sharks/secret-of-why-greenland-sharks-live-so-incredibly-long-finally-revealed

Greenland sharks can live for over 250 years, and scientists think their anti-aging secrets may help humans live longer
https://www.businessinsider.com/how-greenland-sharks-live-long-old-slow-metabolism-2024-7

World’s Longest-Living Vertebrate May Have Revealed Its Anti-Aging Secrets
https://www.iflscience.com/antiaging-secrets-the-worlds-longest-living-vertebrate-reveals-a-big-surprise-74928

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部