ドイツ民間ニュース専門局「ntv」を視ていた時、「ドイツの学者が新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所(WIV)発生説を確認」といったテロップが流れてきた。中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」と「WIV流出説」の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。それだけに、3人の独学者チームの今回の発表に驚いた。何を見つけたのだろうか。
そこで早速、ntvのウエブ・サイトから上記の報道関連記事(10月23日付)を探して読んだ。記事の見出しは「Deutscher Forscher: Sars-CoV-2 kommt zu 99.9 Prozent aus Labor」とかなりセンセーショナルだ。
記事は、「ウイルスのゲノムにおける遺伝子操作の『指紋』を発見した。ウイルスは中国のWIVからきた可能性が高い」というのだ。オンラインに公表された研究内容のプレプリント(査読前論文)によると、3人の学者はSars-CoV-2が特別に遺伝子組み換えされて出てきたウイルスであるという。すなわち、自然のウイルスではなく、人工ウイルスというわけだ。
独チームの3人のうち、中心的学者、ヴュルツブルク大学病院に勤めるヴァレンティン・ブルッテル博士は同僚と共に、ドイツのバイオテクノロジーの日で今年のイノベーション賞を受賞した学者だ。同博士は昨年の夏にはSars-CoV-2のゲノムの異常に気づいたという。
ブルッテル氏は、「他の分子的手がかりと組み合わせると、このウイルスが99.9%人工的で、おそらく操作された天然ウイルスのコピーであることを示している」と、「ntv」局とのインタビューの中で語った。ウイルスのコピー方法は、個々のウイルス研究所が合成ウイルスを作成するために使用するものと類似している。これらの技術は日常の業務でも使用されているやりかただ。同博士自身、自己免疫疾患のための「完全に無害な」タンパク質ベースの薬を開発するためにこの技術を利用しているという。
研究者チームは、Sars-CoV-2のゲノムに一種の「指紋」を発見した。ブルッテル氏によると、これはウイルスのゲノムで定期的に繰り返されるパターンだ。Sars-CoV-2などのRNAウイルスを遺伝子操作する研究所は、最初に個々のDNAビルディングブロックからゲノムを組み立てる。目に見える「認識部位」が構成要素の接合部近くのゲノムに残る。独特の規則的なパターンだ。
研究者チームは、人工的に作成されたウイルスとそれらの自然な「モデルウイルス」のゲノムを比較した。「自然界のウイルスでは、認識部位は完全にランダムに分布している。しかし、遺伝子操作で構成されたウイルスの場合、生産に関連した特定のパターンで現れる。このパターンはSars-CoV-2にも見られる。自然の進化が偶然にこのパターンを生み出す確率は、せいぜい100分の1であり、おそらくそれよりはるかに少ない」という。
ブルッテル氏によると、「研究結果からSars-CoV-2が実験室での事故によって放出された可能性があり、それが最終的に世界的なパンデミックを引き起こした可能性が考えられるわけだ。米国でも高セキュリティの研究所で危険な事故がほぼ毎週発生している。WIVはパンデミックが始まる前は安全性の低い条件下でコロナウイルスに取り組んでいた。口と鼻の保護は義務付けられていなかった。研究者がネズミに噛まれたり、何かが落ちたり、エアロゾルが発生したりする可能性があった。若い従業員が無意識のうちに感染し、症状がなく、他の人に感染させた可能性は十分考えられる。理論的には、無症候性のウイルス感染者が他に感染を広め、数カ月後に武漢の華南生鮮市場で初めてアウトブレイクが発生した可能性がある」というのだ。
同研究内容が報じられると、世界のウイルス学者たちから批判にさらされている。WIV流出説に対して最も批判的な学者の1人、カリフォルニア州ラ・ホーヤにあるスクリプス研究所の有名な免疫学者クリスチャン・アンダーセン氏はドイツの免疫学者の研究を「ばかげている」と一蹴し、「分子生物学の幼稚園を通過することさえできないほど欠陥がある。Sars-CoV-2ゲノムにはランダムノイズのみが見られるのだ」と指摘している。
また、ドイツのウイルス学者、ギーセン大学ウイルス研究所を率いているフリーデマン・ウェーバー氏は(ブルッテル氏らが言及した)痕跡を残さずにウイルスを遺伝子操作することは「可能だ」と強調している。ちなみに、遺伝子操作の痕跡排除技術は米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授らが開発し、それを「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏が取得した経緯がある。
ブルッテル氏は、「人工ウイルスによって偶発的に引き起こされたパンデミックのリスクは過小評価されている。人工的に生成された多くのウイルスは、Sars-CoV-2よりも何倍も致命的だ」と指摘し、一部のウイルス学者たちが研究している「機能獲得研究」の危険性について警告している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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