現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、うえまつそうの新連載「島流し奇譚」。この連載では現役教師ならではの他にはない実話怪談を紹介する。第八回目となる今回は、「新島の風習」にまつわる恐怖体験。
よく怖い話などで幽霊が人間を霊界に引っ張っていく・連れて行くという言葉を聞いたことがあると思う。私の生まれ育った新島でも似たような「引っ張り合う」という言葉がもはや風習として根付いている。
ひとりが亡くなると数日のうちに立て続けに島の人が何人も亡くなっていく。この現象、普通ではあり得ないことだと思うが、島に住んでいると小さいころから普通のことだと思っていた。
これは私が実際に体験した話になるのだが、いまから約20年前、当時大学生だった私は同じ大学の友人をふたり連れて夏休みに新島に帰島した。
連れてきたふたりは初めての新島ということでかなりはしゃいでおり、存分に島の夏を楽しんでたので連れてきてよかったと思っていた。
ちょうどお盆の時期だったこともあり、新島の変わったお盆を見せたい気持ちになった。
その変わった風習というのは、この1年間で亡くなったいわゆる新盆の方のお墓には、横1m、縦と奥行きが50cmくらいのガラスのケースの中に亡くなった方の写真やお花、生前好きだったお酒やお菓子、パチンコ好きな人にはパチンコ玉などをご家族が綺麗に装飾をして、お墓参りに来る方の目線の高さに設置するというものだ。それを見ながら「あ、この方のお墓かぁ」とお線香をたむける。そのガラスのケースは新盆の方限定である。
この時期だけだしなかなか見れない光景だからということで、その友人ふたりを連れて夜、お墓参りに向かった。
島の人は夜ご飯前の夕方あたりにお墓参りに行くのだが、我々はちょっと遅い時間に行ったので我々以外にお墓参りされてる方はほとんどいなかった。
共同墓地に着くとまずお線香の束に火をつけ、碁盤の目になっている墓地の道をジグザグと歩いて自分の家のお墓や知り合い、親戚のお墓にもお線香をたむけながら歩いていた。
その墓地の敷地の奥のほうにゆっくりと3人で進みながら、メインの道からひとつ外れた右の細い道をパッとなんとなく見ると…
着物を着た腰の曲がった老人が、こちらを見てニコッと笑いながら何か言いたげな表情で口をパクパクと動かしつつ、手で宙に大きな円を描いている。
そして明らかにおかしいことに気がついた。その老人、半透明で体の奥が透けて奥の墓石が見えるのだ。
さすがにビックリして、大きい声で「えっ!」と言ってしまうと同じように友人ふたりもそっちのほうを見ながら「えっ!」と同時に言ったので
「見えてる?見えてるよね?半透明のおばあさん!」
そういうとふたりは「え?違う…」と。
ひとりは「右のこっちのほうからお線香じゃない昔のおばあちゃんちのタンスのような古めかしい懐かしい匂いがフワッとしてきて…」
するともうひとりが「オレいま右から声がずっと聞こえてて。ここだよ、ここだよ、引っ張りあっちゅーダントーはここだよ…。なぁうえまつ、ダントーって何?」と。
3人が同じ場所で同じタイミングで、しかし3人とも違う体験をしていたのだ。私は目で、ひとりは鼻で、ひとりは耳で…
しかも「引っ張りあっちゅーダントー」のダントーというのは島の方言でお墓という意味なのだが、その友人がダントーという言葉を知ってるはずがないのだ。
私が見たその半透明の老人も、3人でパニックになっているうちに気づいたらいなくなっていた。
驚いたまま3人でどうしようどうしようともう一度その右側の細い道を見てみると、明らかに他のお墓と違いこの1年間で亡くなった新盆の方のガラスケースがあるお墓が大量に点在していた。
我々が体験したことを繋げると、着物を着た半透明の老人が宙に円を描きながら
「ここだよ、ここだよ、お互いに引っ張りあって死んでいったのはこのへんのお墓の人たちだよ…」
近くのお墓同士でお互いに引っ張りあってあの世へ行ったとでもいうのだろうか。
ひとりだと寂しいからなのか、それとも自分だけいなくなるのは悔しいからなのかわからないが、島にはそんな「引っ張り合う」という言葉が根付いている。
今年もひとりが亡くなるとすぐに何人か亡くなる不可思議な出来事はしっかりと続いている。
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文=うえまつそう
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提供元・TOCANA
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