男性の皆さんは寝不足だと、道に迷いやすくなるかもしれません。

米ペンシルベニア大学(UPenn)、英ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)は新たな研究で、一晩の睡眠時間が6時間未満の男性は、道を探索するナビゲーション能力が低下することを発見しました。

また興味深いことに、9時間以上の寝すぎでもナビゲーション能力の低下が見られたという。

一方で、女性には睡眠不足の負の作用は認められませんでした。

研究の詳細は2024年2月19日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

寝不足だと道に迷いやすくなる?

睡眠が大事であることはもはや誰もが知っている事実です。

十分な睡眠時間は、心と体の健康や全体的な生活の質を維持する上で絶対に欠かせません。

睡眠は体の修復や免疫系の強化、食欲や成長をコントロールするホルモンの調節などに重要な役割を果たしています。

また日中に起きた出来事の情報を処理し、その記憶を脳に定着させ、学習能力、注意力、問題解決などの認知機能を高める働きもしています。

反対に睡眠の質が低下したり、量が十分でないと、認知機能の低下が見られたり、心臓病、糖尿病、肥満、うつ病といった様々な疾患の発症リスクが高まることが研究で証明されています。

さらに睡眠不足の人は情緒不安定になりやすく、勉学や仕事の生産性が落ちて、社会的なコミュニケーション能力も低下することがわかっています。

寝不足だとナビゲーション能力が落ちる?
寝不足だとナビゲーション能力が落ちる? / Credit: canva

これと別に、睡眠の質や量の低下は「ナビゲーション能力の低下」と関係していることが以前の研究で示唆されていました。

ナビゲーション能力とは、自分と周囲の空間の位置関係を把握し、ある地点から目的地まで移動する能力を指します。

これが優れている人は、初めて来た複雑な道でも地図を見るだけで難なく目的地まで辿り着くことが可能です。

他方でナビゲーション能力が低いと、自分が地図上のどこにいるのかがよくわからなかったり、道に迷いやすくなります。

そこで研究チームは今回、睡眠不足がナビゲーション能力に及ぼす影響を明らかにするべく、海洋冒険ゲーム「SEA HERO QUEST」を使った実験を行いました。

ナビゲーション能力を「海洋冒険ゲーム」でテスト!

海洋冒険ゲーム「SEA HERO QUEST」は、プレイヤーがボートに乗って3次元の海洋世界を探検し、行く先々で遭遇する海の生物たちの写真を撮影するモバイルゲームです。

実はSEA HERO QUESTは元々、英国のゲーム会社Glitchersと本研究チームのUCLにより、認知症を研究する目的で2016年に開発されました。

このゲームは美しい海洋世界を冒険すると同時に、複雑に入り組んだ水路を探索しながら目的地に到達するミッションが基本となります。

認知症においてはナビゲーション能力が最初に低下する機能であるため、このゲームをプレイすることで認知症の兆候を早期発見できるのです。

(※ SEA HERO QUESTのプロモーション動画は記事の最後に添付してあります)

SEA HERO QUESTのサンプル画像
SEA HERO QUESTのサンプル画像 / Credit: Alzheimer’s Research UK

今回の実験では、アメリカ在住の健康な成人766名(男性335名・女性431名、18〜59歳)に参加者として協力してもらいました。

参加者には一連のアンケート調査で、日常的な睡眠の質や量、日中の眠気や昼寝の頻度を含む睡眠習慣に回答してもらいます。

その後、SEA HERO QUESTをプレイしてもらい、睡眠習慣とナビゲーション能力の関係性を調査しました。

こちらはプレイ内容の一例を示した画像です。

Aはミッションを示した地図で、プレイヤーは赤旗で示された番号通りに航路をナビゲーションしなければなりません。

Bはプレイ中の様子で、地図を覚えてから閉じた後はもう一度地図を開くことはできず、プレイヤーは記憶だけを頼りにナビゲートするよう指示されます。

AB:プレイしたゲーム画面、C:3名の参加者のナビゲーション航路を示したもの
AB:プレイしたゲーム画面、C:3名の参加者のナビゲーション航路を示したもの / Credit: Emre Yavuz et al., Scientific Reports(2024)

Cは3名のプレイヤーのナビゲーション航路を示したもので、左からスコアの高い順(つまりナビゲーション能力の高い順)に並んでいます。

そしてデータ分析の結果、睡眠時間とナビゲーション能力は「男性」において強く関連していることが判明しました。

日常的な睡眠時間が6時間未満と短かった男性は、他の男性に比べて、ナビゲーション能力が最も低下していることがわかったのです。

7時間台から徐々に成績が上がり、8時間台の睡眠をとった男性が最もナビゲーション能力が高くなっていました。

さらに興味深いのは、9時間以上の睡眠をとっていた男性で再びナビゲーション能力が低下傾向にあったことです。

これは寝不足だけでなく、寝すぎも良くないことを示しています。

その一方で、これらの傾向は女性陣には当てはまりませんでした。

女性ではどの睡眠時間でも男性よりナビゲーション能力が低くなっていましたが、その代わりに成績はほぼ一貫して変わらなかったとのことです。

縦:ナビゲーションにかかった距離、横:睡眠時間(黒:男性、白:女性)
縦:ナビゲーションにかかった距離、横:睡眠時間(黒:男性、白:女性) / Credit: Emre Yavuz et al., Scientific Reports(2024)

以上の結果から、睡眠不足がナビゲーション能力に及ぼす影響は性別によっても異なることが明らかになりました。

この性差の理由はまだ定かでありませんが、一般的に男性はナビゲーション能力が高い傾向があり、女性は低い傾向が見られます。

研究者らは、こうしたナビゲーション能力における元々の性差が睡眠不足の影響を受けるか否かを分けているのかもしれないと話しました。

しかし、この謎を明らかにするには今後のさらなる研究が必要になります。

いずれにせよ、男性は知らない街に出かける用事がある際には、前日にしっかり寝ておいた方がいいでしょう。

こちらが「SEA HERO QUEST」のプロモーション動画になります。

こちらは「SEA HERO QUEST」を用いた認知症研究の紹介動画です。

参考文献

Men who spend fewer hours sleeping might be worse in wayfinding tasks, study suggests

元論文

Shorter self-reported sleep duration is associated with worse virtual spatial navigation performance in men

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。