なぜチンパンジーは生き残っているのに高い知能を持つ原人や旧人は滅んだのか?
人類の進化史を辿ってみると、ホモサピエンスは過去において少なくとも5種類の他の人類と共存していた時期があったことが知られています。
DNAをもとにした解析でも、アフリカ系以外の現生人類にはネアンデルタール人やデニソワ人、さらに未知の種と考えられる第三の種の痕跡と思われる遺伝子が含まれており、人類はそれら他種と混血を進めていたことがわかります。
ただ近年の研究ではその過程がある意味で一方的であり、現生人類(ホモサピエンス)にはネアンデルタール人の遺伝子が混じり込んでいる一方で、発見されたネアンデルタール人の遺骨には、ホモサピエンスの遺伝子が全く含まれていないことが示されました。
人類においてこのようなパターンは、2つの集団で全面戦争(民族浄化に近い)が起きた場合にのみ発生します。
具体的には男性が全員殺され、女性と子供だけが生き残る場合です。
研究者たちはこの結果から、ホモサピエンスとネアンデルタール人の間の種間競争が常に穏やかなものではなく、全てでなくとも一部では、暴力的な側面を持っていた可能性があると述べています。
(※または両種の間でうまれた男性だけが遺伝的な不妊であったり、先天的に生き残れないような健康状態でしかうまれてこれなかった可能性もあります。)
ただどちらにしても、両種の間では現生人類の人種間結婚のような平穏な男女の行き来が失敗したことを示しています。
今回の研究結果もホモサピエンスによる他種への大量虐殺を証明するものではありません。
しかし研究では、ホモ属の間でみられた「多様性が多様性を加速する」という傾向が、現生人類(ホモサピエンス)の登場によって絶たれたと述べています。
通常、多様化しているグループ(属)は簡単なことでは絶滅していきません。
そのため通常、多様化はグループ全体の絶滅耐性のシグナルとなります。
しかし技術を背景に多様化していったホモ属では、圧倒的なテクノロジーを持つ種が登場することで全く異なる経路を辿ることになったと考えられます。
圧倒的なテクノロジーを持つホモサピエンスの前では、他の種は競争相手にすらならず駆逐されてしまったのでしょう。
論文においても「ホモサピエンスの極端な汎用化が、末期における種の分化を妨げた可能性がある」と述べられています。
そして結果的にホモ属では「多様化しているほど絶滅が起きやすい」という外れ値になってしまいました。
このような絶滅パターンは他のどんな生物種にもみられない、ホモ属のみにみられる唯一無二のものです。
この異常なパターンを駆動する仕組みが、ホモサピエンスのどんな性質に根差しているのかを解明することができれば、私たちは私たち自身をよりよく理解できるでしょう。
そして、その気付きは火や石器の発見と同じくらい、重大なものとなるはずです。
参考文献
Interspecies competition led to even more forms of ancient human – defying evolutionary trends in vertebrates
元論文
Diversity-dependent speciation and extinction in hominins
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。