ガイアBH3は休眠状態にある「眠れる巨人」だった!
ガイアの観測データから恒星ブラックホールを見つけるとき、研究者たちは星の公転軌道のゆらぎに注目します。
星の動きというのは、近くに別の重い星やブラックホールがあったりすると、その重力の影響で公転軌道にゆらぎが生じるのです。
それをヒントに、恒星の中心部にあるブラックホールを見つけることができます。
ただブラックホール自体は光を放たないので、直接観測することはできません。
しかし恒星ブラックホールの多くは近くを公転する星から物質を吸い上げています。
それらの物質は猛スピードでブラックホールの中に落下しながら摩擦を起こし、非常に高温になってX線を放出するのです。
こうした恒星ブラックホールと伴星のペアを「X線連星(X-ray binary)」と呼び、研究者はそのX線の光を頼りにブラックホールを検出します。
ところがガイアBH3では、その周囲を公転する伴星のゆらぎは検出できたものの、X線はまったく見えませんでした。
というのも、伴星がガイアBH3からかなり離れた場所を公転していたため、物質を吸い込むことができない距離にあり、X線が放出されていなかったのです。
公転軌道がブラックホールに近づけば、またX線の放出が再開されると思われますが、研究者たちは、この休眠状態にあるガイアBH3を指して「眠れる巨人(sleeping giant)」と評しました。
どうやら、この暗さのせいで今日まで発見が遅れていたようです。
こちらはガイアBH1・BH2・BH3の伴星の公転軌道を時間に沿って示した動画になります。
(※ 音声はありません)
調査に参加したフランス国立科学研究センター(CNRS)のパスクワーレ・パヌッツォ(Pasquale Panuzzo)氏は、これほど巨大な恒星ブラックホールが地球の近くで見つかったことを受けて、「これは研究人生で一度あるかないかの発見です」と話しました。
こんなデカい恒星ブラックホールはどうやって生まれるのか?
しかし、この貴重な発見は同時に大きな謎を提示しています。
これほど大きな恒星ブラックホールがどうやって形成されたのか、研究者たちにもわからないのです。
恒星ブラックホールはたいてい、元となる恒星が寿命を迎える中で大部分の質量を失ってしまうので、その後にできるブラックホールが太陽質量の30倍になることは考えられません。
その一方で研究者らは、あるひとつの仮説も立てています。
それは「ガイアBH3の元になった恒星が、水素やヘリウムより重い元素をほとんど含まない”金属不足の星”だったのではないか」というものです。
天文学では、水素やヘリウムより重い元素を指して「金属」と呼びます。
そして過去の研究によると、金属不足の星は一生の間に失われる質量が少なくなることがわかっているのです。
つまり、金属不足の星は寿命を迎えたときに巨大なブラックホールを作るための材料がまだ残っていることを意味します。
加えて、ガイアの観測データからはガイアBH3とその伴星がともに金属量に乏しいことが示唆されました。
これは研究者の仮説が正しいことを示しますが、この説を確かなものにするにはさらなる観測データが必要になるという。
今後、ガイアBH3の挙動を追うことで、巨大な恒星ブラックホールが誕生するシナリオの謎を解き明かせるかもしれません。
参考文献
Sleeping giant surprises Gaia scientists
Most massive stellar black hole in our galaxy found
元論文
Discovery of a dormant 33 solar-mass black hole in pre-release Gaia astrometry
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。