クマムシは驚異的な回復力により大量の放射線にも耐える
ゴールドスタイン氏ら研究チームは、過去25年間にわたり、クマムシの研究を行ってきました。
今回の研究では、クマムシの一種である「Hypsibius exemplaris(ヒプシビウス・エクセンプラリス)」に着目し、どのようにして大量の放射線に耐えることができるのか調査しました。
その結果、H.exemplarisは、放射線によってDNAの損傷を受けないわけではないと分かりました。
これについては当然とも言えますが、私たち人間と同じように、クマムシも放射線を浴びることでDNAは確かに傷ついていました。
一方で研究チームは、H.exemplarisが、広範囲にわたってDNAの損傷を修復できることも発見しました。
H.exemplarisは放射線を検出すると、DNA修復遺伝子の発現を増大させ、放射線によるDNAの損傷を急速に修復していたのです。
人間にもDNA修復遺伝子はありますが、どうしても限界があります。
しかしクマムシたちは、人間とは異なり、それらの発現を増大させて回復力を大きく高め、放射線に対処していたのです。
彼らは「大量の放射線がDNAをズタズタに傷つけるなら、それを上回る回復力を持てばいい」という力業で生き抜いていたようです。
ゴールドスタイン氏は、この発見に対して非常に驚いており、「クマムシは、私たちが予想もしていなかったことを行っている」とコメントしました。
今回の研究は、クマムシが最強生物である証拠をまた1つ積み重ねるものとなりました。
研究チームは、新しい発見を応用することで、クマムシ以外の動物を放射線から守る方法を生み出すことができるかもしれないと考えています。
過去には「クマムシのDNAを人間に組み込む」という研究もありました。
もしかしたら遠い将来では、放射線に強い人体を生み出すことも可能なのかもしれませんね。
クマムシのDNAを人に組み込む計画が進行中
参考文献
UNC-Chapel Hill researchers discover new clues to how tardigrades can survive intense radiation
What Makes Tiny Tardigrades Nearly Radiation Proof, Featuring the Goldstein Lab
元論文
The tardigrade Hypsibius exemplaris dramatically upregulates DNA repair pathway genes in response to ionizing radiation
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。