飛んで火に入る夏の虫が、少なくなっています。
アメリカのハーバード大学(Harvard University)で行われた研究により、蛾が光を利用した罠によって捕らえられる数が、25年前と比べて大幅に低下していることが示されました。
またこの傾向は複数の地域で同時に確認されている、広域かつ長期的なものであることも示されました。
光を使った罠は大学の研究者だけでなく地元の学者、さらには夏休みの自由研究などにも利用される極めて普及した方法として長年にわたり利用されてきました。
今、光と昆虫の間に何が起きているのでしょうか?
結論から言えば虫たちは人工光に捕らえられないよう進化している可能性があるようです。
研究内容の詳細は2024年4月19日に『Journal of Insect Conservation』にて「蛾は以前ほどライトトラップに引き寄せられなくなっている(Moths are less attracted to light traps than they used to be)」とのタイトルで公開されました。
光の罠に捕らわれる虫の数が減っている
昆虫学では光を使った罠(ライトトラップ)は、多様な昆虫を誘引するために、古くから利用されてきました。
ライトトラップに用いられる光は主に強い短波長光(ブラックライトなど)を利用します。
人間の目と比べて昆虫の目には短波長の光が明瞭に映るため、これを利用して昆虫を効果的に誘引することができるのです。
近年の研究では、その原理も明らかになっています。
2024年に発表された研究において、実は昆虫たちは光を目指して突撃しているわけではなく、光によって上下感覚を失い、光の周囲に閉じ込められていることが報告されています。
夜の虫たちは「光に集まっているつもりはなかった」と判明!
研究分野においてライトトラップは、昼行性よりも夜行性の昆虫に有効であり、小型の蛾より大型の蛾のほうを集めやすいこと、さらにメスよりもオスのほうを捕らえやすいことがわかっています。
またこの特性は害虫駆除器などにも利用されています。
コンビニなどのお店の前に設置された、紫色の光(短波光)を発する害虫駆除器が、バチッという音をたてて虫たちを焼き殺す様子をみたことがある人もいるでしょう。
しかしここ最近になって、奇妙な変化がみられるようになってきました。
研究者や昆虫保護活動家などの複数の調査により、ライトトラップによって捕獲される虫たちの数が過去に比べて急激に減ってきたと報告されていたのです。
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは複数の罠を組合わせることで、虫たちと光の間にどんな変化が起きているかを調べることにしました。
調査にあたっては米国の農場で収集されてきた、アメリカタバコガ(Helicoverpa zea)のデータが使われました。
アメリカタバコガはコーンイヤーワームとも呼ばれる蛾の一種であり、農場にとって深刻な害虫となっています。
そのため農場ではアメリカタバコガの数を記録し、管理してきたのです。
なかでもデラウェア州の記録は最長で25年前にまで遡っていました。
蛾の捕獲に用いられていた方法は、メスの発するフェロモンとライトトラップの両方を駆使したものでした。
研究者たちが、これら長期的なデータを分析すると、非常に驚くべき結果がみえてきました。
記録を開始した当初、フェロモントラップで捕獲した蛾の総数を100%とすると、ライトトラップで捕獲できる総数は約30%でした。
しかし年月が経過すると、フェロモントラップで捕獲できる数は一定なままであったものの、ライトトラップで捕獲できる数だけが急速に減少していきました。
そして近年ではフェロモントラップで捕獲した数のわずか4.6%のみしか、ライトトラップでは捕らえられなくなっていることが判明します。
この結果は、蛾の総数は変らないのに、ライトトラップで捕らえられる蛾の数だけが急減していることを示しています。
同様の結果は他州の農場でもみられており、この現象が局所的なものではなく大陸規模あるいは世界規模で起きている可能性を示しています。
いったいなぜ蛾たちは、光に捕らわれなくなってしまったのでしょうか?