このほど、オーストラリア在住の女性患者(64)の脳から長さ8センチのワームが生きたまま摘出されたことが、豪キャンベラ病院(Canberra hospital)、オーストラリア国立大学(ANU)により報告されました。

調査の結果、このワームはニシキヘビに寄生することで知られる「オフィダスカリス・ロベルツィ(Ophidascaris robertsi)」という線虫であることが判明。

ヒトのみならず、哺乳類での感染例でさえ史上初めてとのことです。

どうしてヘビに寄生する線虫が女性の脳内にいたのでしょうか?

研究の詳細は、2023年9月号の医学雑誌『Emerging Infectious Diseases』に掲載されています。

脳内にウネウネと動く影を発見!

豪ニューサウスウェールズ州在住の女性(64)に異変が現れたのは、2021年1月初めの頃でした。

およそ3週間にわたり腹痛下痢が続いたあと、絶え間ない空咳や寝汗、発熱を訴え始めたのです。

症状の治まる気配がないため、女性は1月末に地元の病院に入院しました。

しかし原因不明のまま時間だけが過ぎ、2022年までに物忘れ抑うつの症状まで現れ始めます。

そこで女性は医師の紹介で、より大きなキャンベラ病院へと移りました。

そして神経外科医のチームがMRIスキャンを行った結果、信じがたいものが発見されます。

なんと女性の脳内には長さ8センチの線虫が生きたままウネウネと動き回っていたのです。

線虫がいた女性の脳には13×10ミリの病変(下図のA)が認められ、今まで女性を苦しめてきた数々の症状は、この寄生虫によって引き起こされていたと推測されました。

医師チームはすぐに外科手術で女性の脳内から線虫を摘出しましたが、取り出された線虫はまだ体をくねらせていたそうです。

A:女性の脳に見られた病変(左上)、B・C:摘出された線虫(8cm)
Credit: Sanjaya N. Senanayake et al., Emerging Infectious Diseases(2023)

研究主任で感染症の専門医であるサンジャヤ・セナナヤケ(Sanjaya Senanayake)氏は「脳神経外科医は定期的に脳の感染症に対処していますが、今回のような症例は一度きりの経験です」と説明。

「私たちの誰もこんな事態に出くわすとは予期していませんでした」と続けています。

この驚くべき発見を受けて、医師チームはすぐさま脳内にいた線虫がどんな種類であるかを調べ、女性に必要な医療措置の手がかりを得ようとしました。

しかし線虫の専門外である彼らには手に負えなかったため、寄生虫の研究をしているオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の科学者に協力を仰ぎました。

すると、その研究者は線虫を一目見て「これはオフィダスカリス・ロベルツィ(Ophidascaris robertsi)だ」と答えたのです。

オフィダスカリス・ロベルツィとは一体どんな線虫なのでしょうか?