■斑点の成分が物語る“最後の悲惨な日々”
分析の結果、焦げた炭素に加えて、カルシウム、チタン、亜鉛が発見された。しかしその3つはグリーンランド北東部の岩層とは一致しなかったのである。
斑点をさらに分析するとその謎が解けた。これらの鉱物はゴム製品の“詰め物”として使用されており、日記の斑点には焦げたゴムが含まれていることが示唆されたのだ。これはブロンルンドが点火しようと必死になっていた灯油ストーブかバーナーの焦げたガスケットに起因するものである可能性が濃厚となった。
研究チームはほかにも有機化合物の3つのグループを検出した。脂質(植物油、動物性脂肪、魚や鯨油など)、石油(ストーブの燃料)、そして人間の糞便である。研究チームによれば洞窟の中で凍えていたブロンルンドは自分の糞便を燃やそうとしていたのではないかと指摘している。糞便を燃やしてストーブの火をたこうとしていたというのだ。
「この時、ブロンルンドは何週間も飢えており、疲労も限界を超えた上、凍傷にかかっていました。彼が補給拠点から持ってきたマッチを使って小さな洞窟の中のストーブをオンにしたとき、彼の手は震えていた可能性があります」(ラスムッセン教授)
当時のこの種のストーブは予熱が必要で、通常はアルコールに火をつけて暖めるのだが、補給拠点ではアルコールが品切れになっていたという。
そこでブロンルンドは震える手で自分の糞便になんとか火をつけようと躍起になっていたのではないかということだ。その最中に日記の開いたページを触るなどしたことでこの斑点が偶然マークされたと考えられるという。
「ブロンルンドは、ストーブを(糞便を含む)周囲のすべてのもので予熱しようと試み、おそらく失敗した後、日記のページにマークを残した可能性があります。マーク内の糞便の存在は、彼の“最後の悲惨な日々”の過酷で劣悪な状況を物語っています」(研究論文より)
一縷の望みをかけて自分の糞便まで燃やそうと悪戦苦闘している中で命が尽きたのだとすればあまりにも忍びない。天国でストーブが必要ない暮らしをしていることを願いたいものである。
参考:「Live Science」、ほか
※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。
文=仲田しんじ
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提供元・TOCANA
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