臨死体験といえば、臨死、すなわち死に際の状態から生還したという人々が証言する体験のことである。心肺停止や瀕死の状態でありながら、自身に何らかの記憶が残されており、別次元(世界)に行ったり、遠く離れているはずの場所を聴覚的・視覚的に把握したりといった内容が多く聞かれている。三途の川に到達する、走馬灯を見る、といったものもこの体験の一種とされる場合がある。
体験談とされるものは現在でも非常に多く、古くは古代ギリシャから臨死体験のような記録があると言われている。死後の世界が実在することの証明であるとするものから、脳が見せた幻覚であるとするものまで、様々に研究が進められており、カール・ユングは、臨死体験をした著名人の一人として知られている。
ユングといえば、20世紀前半に活躍したスイスの精神科医・心理学者であり、精神分析学の祖ジークムント・フロイトに師事し(のちに決別するが)、「原型」「集合的無意識」などといった精神分析分野に留まらない独特の思想体系による影響を後世に与えた人物だ。
ユングが臨死体験をしたのは晩年の1944年のこと。彼の伝記によると、当時心筋梗塞を患ったことによって生死の境をさまよい、そこで意識を喪失した際に不思議な幻像を目の当たりにすることとなったという。彼の眼前にあったのは青く光り輝く地球であり、それを彼は宇宙の高みから眺めていたというのである。
地球は視野に収まりきらないほど大きく、その輪郭は青く光り地球のところどころに燻し銀のような濃緑の斑点がつけていた。加えて、紺碧の海と諸大陸が見られ、脚下はるかかなたにはセイロン、はるか前方にはインド半島が見えたという。のちに、その位置から地球を展望するには1,500メートルもの上空でなければならないこともわかったという。
宇宙空間に浮かんでいる彼は、そのうち大きな隕石のような黒い石の塊が漂っているのを発見した。大石の中央に開いていた穴を見てみると、その中にはヒンドゥー教の礼拝堂が広がっていたという。その入口へ近付いていった途端、彼は自身が希望、思考した地上のあらゆる事柄が走馬灯のように表れ、自身から抜け出していくという感覚を抱いたというのだ。
わずかながら自分の体に残ったものは、”自分が体験し周りで起こったもの全て”であったという。彼はこの体験によって、「私自身そのもの」を知り、人間存在の本質を洞察するに至ったのだという。
体験後の彼は、『転移の心理学』や『結合の神秘』といった主著を次々と発表し、また第一次大戦後に彼が住んでいた家に現れたという幽霊の話を率直に語り始めたり、科学者という見かけに拘らないようになったりと、学問に対する姿勢についてまでも大きな変化を及ぼしたという。
臨死体験をした人々は、それを機に思想や物事の捉え方を大きく一変させる傾向が強いが、ユングも例外ではなかったようだ。
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文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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提供元・TOCANA
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