現在のバングラデシュの人口動態を見ると、20歳前後の人口が一番大きくなっている。約1.7億人の人口の多数を若年層が占める。人口動態論的に、社会変動が起きやすい構造になっていたことは間違いない。そして経済成長し始めた国の実情の中で、新たな多数派世代のエリート層となるべき大学生層に、それにみあった職がない(独立戦争時からの歴史的経緯による既得権益層が経済成長の果実も独占し続けている)という感覚が、特に今回の政変を引き起こした不満の爆発になったと言える。

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なお日本は、バングラデシュをいち早く国家承認して以来、友好関係を維持している。23年には、その関係を、「戦略的パートナー」として位置付けて重要視している。実は現在の2国間関係発展の柱は、労働力だ。人口激減している日本にとっては、優秀な若年労働者を欲しているが、経済成長にあわせて教育水準も向上しているバングラデシュの豊富な若年層が魅力だ。人口爆発に悩むバングラデシュ側も、日本への人材提供を前向きにとらえている。

戦略的パートナーシップに関する日バングラデシュ共同声明(2023年4月26日)

つまり日本のバングラデシュへの「戦略的パートナーシップ」の動機は、今回のバングラデシュの政変の社会構造的事情と、大きく関わっている。

もちろんこの地域の地政学的観点から見たときの重要性も、非常に大きい。ベンガル湾に関わる権益にも、日本は多大な関心を持っている。

バングラデシュの政変を見て、短絡的な図式化を振り回した理解で、安易な評価をすることは、禁物である。何が起こっても、バングラデシュは、日本にとって重要である。長期的な視野に立って安定的な関係を維持していくことを、何よりも重視していかなければならない。