「まわりの経営者もやっているから」とリスクを顧みない経営者の心理

 労務や人事、勤務形態、雇用条件などをめぐる違法まがいの事例は少なくないという。

「今回のような横暴な労働条件を強いる事例は、中小企業で実際に多いです。会社側が労働者に対して告知しなければならない義務を怠ったり、『どうせ違反をしても気がつかないだろう』と、平然と労働者に対して違法対応をしたりするケースをこれまでいくつも見てきました。正直、私は今回Twitterで話題になった事例を最初に耳にしたときも、特に驚きはありませんでしたからね。

 他の例をあげると、正社員で会社に入ると、3カ月ほどの試用期間が設けられることもありますが、『社会人として見習いなのだからこの期間は社会保険に加入させません』といった対応をしている会社がありました。これは法的な根拠がまるでない違法行為です。また、労働者の意思ではなく経営者が勝手にタイムカードを押して、証拠が残らないようにしてから長時間労働をさせるケースもあります。こうした行為が残念ながら未だになくならないのが実情です」(同)

 不正や悪行がバレれば経営者側にリスクがあるにもかかわらず、なぜ問題が起こり続けるのだろうか。

「発覚したときに陥るリスクを経営者が理解していないからでしょう。今回のTwitterのケースも、経営者が社労士に自ら問題行為を明かしていることから考えて、非常に悪質な行為であるということを本人があまり自覚していないわけです。

 私が直接知っているケースでは、『知り合いの経営者が社員を社会保険に加入させずに国民健康保険に加入させているけど、特にまだ何にも問題が起きていないのでうちもやっていた』という経営者もいました。『他社はこうやって利益を生み出しているのだから、自分たちもやらないと競争に負ける』という意識が優先され、守らねばならない一線を越えてしまっているのでしょう。これらは、雇う側と雇われる側の力関係を利用していることにほかならず、本来あってはならないものです。ですが法律という明確なルールがあったとしても、日々を過ごしていると法律より個人間の人間関係が重視されてしまうのは、残念ながらよくあることなのです」(同)

 労働者側がこうした条件を自らのんでしまうケースもあるそうだ。

「会社からの横暴な要求を自ら受け入れてしまう労働者もいるのです。たとえば、長年仕事にありつけず、ようやく入れた会社だった場合、労働者は不利な条件でも雇ってくれているのだから我慢しようと、受け入れてしまうケースも少なくありません。このような社会的な受け皿不足が招いている側面に関しては、国の保障が整っていれば防げる部分もあるでしょう。また、低所得な外国人労働者などの場合、社会保険に入るより低所得用のサポートなどを駆使して、自分で国民健康保険と国民年金を払ったほうが安くなるため、そちらを選んでしまうケースもありますね」(同)

 いずれにしても、労働者側も一定の知識を身に着けておくことが必要となるという。

「悪意のある経営者を減らしていくのは非常に難しい問題ですので、我々社労士が会社の内部に入らせていただき、日々問題や課題に一緒に向き合っています。労働者側も仕事で保証される権利についての最低限の知識を持つように努めれば、ある程度の自衛はできると思います。一定の知識を持っていれば、労基や弁護士、我々社労士に相談するという選択肢を取ることもできるでしょう」(同)

(文=A4studio、協力=中健次/社会保険労務士法人ALLROUND渋谷代表)

提供元・Business Journal

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