フランスには約3万5000の自治体(市町村)が存在します。つまり、おおむね同じ数の市役所と市長さんが存在するわけです。日本の市町村の数が1700強であることを考えると、ちょっと想像しがたい多さですね。
このフランスの市役所には、写真に撮りたくなるような素敵な建物が多いのをご存じでしょうか。町の中心の広場に面する歴史ある建築物が用いられていたり、市民の憩いの場となる公園に囲まれていたりで、観光客にとっても魅力的なことが少なくないのです。
ということで、今日は写真でフランスの市役所巡りをしてみましょう。
目次
カレ(人口:約6万7,000人)
<カレの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
まずは筆者の住むフランス北部から。
この辺りは、赤レンガ建築が多く市役所も例外ではありません。例えば、こちらは港町カレの市役所です。高い塔はベフロワと呼ばれる大きな鐘楼で、カリヨンや鐘が置かれ、時計台の役目も果たしたりします。ベフロワもこの辺りに特徴的な建築物で、フランスのフランドル地方(ベルギーと国境を接するあたり)の鐘楼23は、ベルギーの鐘楼33とともにユネスコの世界遺産に指定されています。こちらのカレの鐘楼もそのひとつです。
<ロダン作「カレーの市民」©Kanmuri Yuki>
カレの市役所のもう1つの見どころは、ロダンの彫刻「カレーの市民」でしょう。14世紀の百年戦争の時の逸話を元に制作されたもので、全世界に12台存在しますが、カレー市役所前に置かれているのは一番最初に鋳造されたものです。
コミーヌ(約1万2,000人)
<コミーヌの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
橋を渡ればそこはベルギーという国境の町コミーヌの市役所にも、世界遺産の指定を受けた鐘楼が備わっています。コミーヌには12世紀から鐘楼が築かれていましたが、火災や戦災で何度も焼け落ち、今ある形になったのは1623年のことです。その後、第一次世界大戦時にドイツ軍により再び破壊されましたが、1924年全く同じ形に再建され今に至っています。赤レンガと玉ねぎ型の塔、なかなかのインパクトですね。
アルマンティエール(人口:約2万5,000人)
<アルマンティエールの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
アルマンティエールの市役所も威風堂々とした赤レンガ建築で、世界遺産に登録された鐘楼つきです。鐘楼も市役所も第一次世界大戦時に一度破壊され、現在の市役所は1925年から9年かけて再建されたものです。
アラス(人口:約4万2,000人)
<アラスの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
アラスの市役所は、1501年から1517年に掛けて建設され、その後拡張工事もされましたが、第一次世界大戦中に破壊されました。今建つのは、戦後以前と寸分の違いもないよう再建されたものです。エロー広場に面して建つアラスの市役所の鐘楼もユネスコの世界遺産に登録されています。上まで登れば、アラスの美しい町が眼下に広がります。
<アラスの鐘楼から見たエロー広場 ©Kanmuri Yuki>
ドゥエ(人口:約3万9,000人)
<ドゥエの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
ドゥエの市役所の鐘楼もユネスコ世界遺産に登録されています。ドゥエの鐘楼はそのカリヨンの規模の大きさでも有名です。こちらも上まで登って見学することが可能で、カリヨンも間近に見ることができます。
リル(人口:約23万6,000人)
<リルの市役所と鐘楼 ©Kanmuri Yuki>
フランス北部最大の都市リルの市役所にも鐘楼が備わっていて、世界遺産に登録されています。こちらも事前予約をすれば見学が可能です。リルの市役所は、珍しく町の中心であるグランプラスから離れた場所に位置します。
というのも、第一次世界大戦後の町の再建にあたり、当時の市長が市役所を移動させたからです。1932年に完成したこの鐘楼は、当時フランスでは初の100m以上の高さを持つ鉄筋コンクリート製建造物でした。他に高いビルがあまりないため、今でも上からの眺望はなかなかのものです。
ベルグ(人口:約3,500人)
<ベルグの市役所 ©Kanmuri Yuki>
ベルグは、フランスで大ヒットした映画『ようこそ、シュティの土地へ(Bienvenue chez les Ch'tis)』(2008)の舞台となった町で、その鐘楼はやはり世界遺産に指定されています。けれどもベルグの鐘楼は、市役所とは別な建物。市役所の方は、1871年落成のルネッサンス様式で鐘楼の向かい側に建っています。
この写真で注目してほしいのは、市役所前に置かれた巨人(ジェアン)の存在。ベルギーからフランスのフランドル地方にかけての町や地域は、その町独自の巨人を持つ伝統があります。巨人たちは、普段は市役所などで大切に保管されていますが、祭りや行事では花形的存在で、中に複数の人が入って動かし、パレードなどに参加します。上に写っているのは、1913年に誕生した「ラマルティヌの選挙人」で、座った状態で高さ6メートル50センチ、体重250キロ。常に雨傘を持ち歩いているのが特徴であるベルグの巨人です。
ルネスキュール(人口:約2,100人)
<ルネスキュールの市役所 ©Kanmuri Yuki>
ルネスキュールは町というより村に近い規模の自治体ですが、その市役所が置かれているのは美しい城です。13世紀にフランドル伯が建てた城がもとになっており、その後フランス革命や火災などの被害を受けるたびに修復されてきました。今ある形で市役所がおかれたのは1970年のことです。市役所の周りには小川の流れる静かな庭園が広がり、散策にも適しています。
クロワ(人口:約2万人)
<クロワの市役所 ©Kanmuri Yuki>
リルの郊外にあるクロワの市役所も広い緑地に囲まれています。これはもともと、繊維業で財を成したルーベの富豪が1878年に建てたネオルネッサンス様式の邸宅でした。市役所として用いられ始めたのは1926年からのことで、周囲の緑地は市民の憩いの公園となっています。
ワンブルシ(人口:約1万人)
<ワンブルシの旧役所 ©Kanmuri Yuki>
こちらは、リル北方にある町ワンブルシの旧市役所です。1868年に建てられたネオフランドル様式の建物を見ると、赤レンガ建築の多様性を感じることができるのではないでしょうか。市役所には手狭となったことから、いまは観光案内所として用いられていますので、堂々と内部も見学してください。
ルーベ(人口:約9万8,000人)
<ルーベの市役所 ©Kanmuri Yuki>
リル北方のルーベは、19世紀から20世紀にかけて繊維産業で大いにその名を広めた街です。いまではその経済力は翳っているものの、全盛期に建てられた多くの大邸宅は、今見てもほれぼれするものが多くあります。
そんなルーベの市役所は20世紀初めに、グランプラスに面して建てられたもの。設計者は、ヴィクトール・ラルーといい、現在のオルセー美術館であるオルセー駅を設計した人物です。見学の際は、威風堂々としたファサードの浮彫も良くご覧ください。繊維産業などに従事する人々の像などが刻まれています。
サン・カンタン(人口:約5万3,000人)
<サン・カンタンの市役所 ©Kanmuri Yuki>
フランス最北部よりは少し南、パリとリルの間ぐらいに位置するのがサン・カンタンの町です。13世紀にはフランス王国領となったサン・カンタンは、中世においては東のシャンパーニュと北のフランドルの間にあることから商業が栄えました。
今も残る市役所は、19世紀と20世紀に大きく修繕されたものの、建物自体は14~16世紀にかけて建設されたもので、フランドル地方の影響を色濃く受けたフランボワイヤン・ゴシック様式のファサードを持っており、広場の中でもひときわ人目を引きます。
ドーヴィル(人口:約3,500人)
<ドーヴィルの市役所 ©Kanmuri Yuki>
市役所の建築には地方色も出ます。こちらはノルマンディのリゾート地ドーヴィルの市役所です。ノルマンディ建築は、コロンバージュと呼ばれる木骨組みで知られます。なるほど、だからドーヴィル市役所もコロンバージュか、と思ってしまいそうですが、実はこれは偽物のコロンバージュです。
ドーヴィル市役所が最初に建てられたのは1861年のことで、その後増築が何度か成されましたが、その作りは赤レンガ建築でした。今見られるように中心の建物の外観だけ、コロンバージュ風に変身させたのは1950年になってからのことです。ノルマンディの町にふさわしい地方色をと市が建築家に依頼し実現したものです。
その甲斐あってか、いまではドーヴィル市役所は、観光名所である海岸通りと同じくらい観光客が写真を撮る場所となっています。
メス(人口:約12万人)
<メスの市役所 ©Kanmuri Yuki>
フランス東部の町メスの市役所もまた地方色を感じることができる建物です。なんといっても使われているのはモゼルで採石されたジョーモン石。ジョーモン石は、黄色がかった色をしており、この色はメスに多く残る歴史的建造物の特徴ともなっています。
<メス市役所の階段 ©Kanmuri Yuki>
メス市役所は、1769~1771年にかけて建設されました。ご覧のように、二階へと続く階段もさすがの美しさですね。写真はありませんが、二階の広間には、19世紀のステンドグラスが並び、美しい中にも荘厳な雰囲気を醸し出しています。
トロワ(人口約6万2,000人)
<トロワの市役所 ©Kanmuri Yuki>
こちらは、シャンパーニュ地方の南の方に位置するトロワの市役所です。映画のセットかと思うほどの中世の町並みが続く中に位置する市役所は、トロワの他の建物と比べればそれほど古くなく1624~1672年にかけて建てられたものです。というのも元の建物は、1524年の大火で、ご多分に漏れず大きな被害に遭ったからです。
プロヴァン(人口:約1万3,000人)
<プロヴァンの市役所 ©Kanmuri Yuki>
パリとトロワの間に位置するプロヴァンも、中世の町並みが残る町で、ユネスコの世界遺産にも登録されています。上の写真は、ちょうどプロヴァンで毎年行われるニフレット祭りの数日前に訪れた時のものなので、市役所もお祭り用の白と黄色のお花で飾られています。
ディジョン(人口:約16万人)
<ディジョンの市役所 ©Kanmuri Yuki>
最後にコート・ドール県の県庁所在地であるディジョン市の役所を紹介しておきましょう。 写真に納まりきらないくらい大きな建物は、元ブルゴーニュ公爵の宮殿で、何度も増改築されてきましたが、最も古い部分は14~15世紀の建築です。
いくぶんフランス北部に偏ってしまいましたが、このようにフランスの市役所には観光客目線で見ても見ごたえのある建物が少なくありません。次の町歩きの際にはぜひ市役所もチェックしてみてくださいね。
文・写真・冠ゆき/提供元・たびこふれ
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