海外レースで見事に日本車初勝利
ホンダS600は同社初の4輪小型車、Sシリーズの中心車種である。
1963年10月に発売されたS500の発展型として1964年3月にデビューした。S600はS500のエンジン排気量を531ccから606ccに拡大したモデルだ。当時、国産唯一だった直列4気筒DOHCはモーターサイクルで培った技術を投入した高回転・高出力設計。スペックは57ps/8500rpm、5.2kgm/5500rpm。S500と比較して13ps/0.6kgmパワフルで、驚異的なリッター当たり出力94psを誇った。パフォーマンスは目覚ましく、トップスピードは145km/hをマーク。排気量拡大に伴い、全域でトルクが豊かになった結果、加速性能はS500より数段鋭くなっていた。
S600はサーキットでスポーツポテンシャルを発揮する。1964年5月に鈴鹿サーキットで開催された第2回日本グランプリのGT-Ⅰクラス(1000cc以下)で優勝。同年9月、ドイツのニュルブルクリンク500km耐久レースでもクラス優勝を飾る。欧州のレースにおける日本車の初勝利だった。ホンダの高性能イメージは、国内外のレースで好成績を収めたS600によって確立されたといっていい。
S600は1965年2月にファストバック形状のルーフを持つクーペをラインアップに追加する。クローズドルーフのクーペは耐候性に優れ、大型のリアゲートが装備され、ラゲッジスペースが有効に使えた。天候に左右されず長距離ドライブを快適にこなせるマルチユースフルな小型GTの先駆けだった。
S600は1966年1月、S800にバトンタッチ。1970年まで続いたホンダSシリーズの総生産台数は2万5853台。そのうちS600は、ほぼ50%の約1万3000台だった。
取材車は、数年前にフルレストアされたオープンモデル。内外装ともオリジナル状態を維持している。ステアリングはウッドタイプの純正3本スポーク、ドライビングポジションはあくまで低い。S600のエンジンの性格を象徴しているのがタコメーターである。1万1000rpmまで刻まれレッドゾーンは9500rpm以上の設定だ。
加速は想像以上に鋭い。右足を深く踏み込めば、交通の流れを容易にリードできた。1速がノンシンクロの4速MTはショートストローク設定。手首の動きだけでシフト操作が可能。足回りやブレーキもしっかりとしていた。