かんひもは、2005年ごろに発表されたネット怪談の一つ、そしてその中に登場するまじないの道具である。黒くて艶のある縄紐のようなものでできた直径10センチメートルほどの腕輪状の物体であり、何らかの字が彫られた丸い石のようなものが5カ所に止められている。「呪物・呪殺」ジャンルであるコトリバコやリョウメンスクナが登場した時期に投稿されたことから、その系譜の流れをくんだ話であると考えられる。
舞台は長野県の山奥。四人の人間が苦悶の表情をしている不可解な道祖神もしくは石碑のもとに、腐りかけた箱の中にかんひもが収められていた。それを腕にはめて時間が経過すると、徐々に紐がほどけて一本一本が腕に突き刺さっていき、皮膚の中で寄生虫のごとく動き回るという。放置すると頭部にまで侵入されてしまい、それを防ぐためにはかんひもの浸食部分を切り落とすしかない。切り落とされた傷口からは出血が一切無く、無数の髪の毛がこぼれ落ちてくるという。処置に間に合わなかった場合は、脳に突き刺さり無数の穴があいているという。
かつて、他の集落との交流があまりなく集落内だけでの婚姻が主だったころ、「血が濃くなる」ということで障害を持って生まれる子が多く、そのような子たちを「凶子(まがこ)」、産んだ母親を「凶女(まがつめ)」と呼び、災いをもたらす存在しとして殺されていた。しかし、凶女が死後も災いをもたらすと考えた集落の人々は、凶女の髪を束ねて凶子の骨で作った珠でとめた呪具を作り出し、それを他の集落の地に埋めて災いを転嫁させよることにした。髪のまじないで喪(良くないこと)を被せることから「髪被喪(かんひも)」と呼ばれるようになったという。道祖神は、埋められたことに気づいた隣村の人々によって埋め返されたかんひもを、封じるために立てられたものであったという。今では、かんひもの風習は廃れたといわれている。
作中では、具体的な災いについての記載は特に見られず、関わった個人の被害が主だった描写となっている。そのかんひもという呪物の怪異・症状を見ると、どことなく「疳の虫」が思い起こされる。疳の虫とは、小児による夜泣きや暴れ、癇癪といった神経症状の原因と言われており、虫きりや虫封じといった治療・まじないが知られている。この疳の虫の治療では、粗塩を手指にまんべんなくこすりつけて洗い流し拭き取ると、指先から白い糸が出てくると言われ、これが疳の虫の正体といわれている。かんひもは、「疳の虫」がモチーフとなっている可能性も考えられるだろう。
【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】
文=にぅま(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
提供元・TOCANA
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