7月初旬、ハリケーン「ベリル」が米国テキサス州に上陸し、死傷者が出たほか数百万の世帯が停電するといった被害が発生した。ベリルは倒木や断線、建物崩壊など多大な損害をもたらし、米国の保険損失は推定25億~45億ドルにのぼるという。

気候変動のペースが加速し、保険会社では気象情報の予測とリスク管理が求められているなか、Applied Research Associates, Inc. (以下、ARA)は、ハリケーン災害モデルソフトウェア「HurLoss」の最新版をリリースした。

ハリケーン災害モデル「HurLoss」

1979年にニューメキシコ州で設立されたARAは国防、エネルギー、国土安全保障、航空宇宙、医療、輸送、製造、保険の分野で製品・ソリューションを提供している科学研究・エンジニアリング会社。従業員の多くが、工学および物理科学の高度な学位を取得しており、最も困難な技術的問題に取り組む専門知識を持っている。

ARAのHurLossは保険会社、再保険会社、ブローカー、ILSマネージャー向けの災害モデルで、2003年以来米国全土の連邦緊急事態管理・緩和計画に使用されている。同モデルでは、ハリケーンの風速と風向を導き出したり、海から陸への風の遷移を正確に生成したりできるほか、物理的損害と経済的損害の両方を検証することが可能だ。

先進的な気候変動ビューを含む新機能

HurLossの最新バージョンでは対象地域と国が大幅に拡大され、米国、カリブ海、バミューダ、カナダ東部、メキシコ、中央アメリカを含む北大西洋流域全体をカバーするイベントセットが提供される。

また、今回は“気候調整(または気候変動)”という新機能を追加。長期および短期の海面温度の気候学的結果に加え、ARAは天気予報や研究に使用される主要な一般循環モデルからの重要な環境入力に基づく将来の気候変動を導入。この方法は、2023年6月に気候調整を組み込んだモデルとしてフロリダ州損失予測方法論委員会によって初めて承認を受けたものだ。

ハリケーン発生の際は急速に変化する環境、特に海面温度の上昇の影響を受けやすいが、ARAの将来の気候モデルの場合は海面温度に限定せず、ハリケーン発生に重要な風のせん断と対流圏界面の水温の影響も考慮する。

保険会社やその他のモデリング関係者は、ハリケーンリスクに関する従来のモデリング業界の見解に加えて、この新たな見解から恩恵を受けられるだろう。

HurLossの最新バージョンは現在、OASIS損失モデリングフレームワーク上のNasdaq Risk Modeling for Catastrophes Platformを通じて利用可能。なお同バージョンは、独立したサードパーティモデルとして、Moody’s Intelligent Risk Platformでもまもなく利用可能となる予定だ。

(文・Haruka Isobe)