2021年、1年遅れの東京オリンピックの際は、チケットが当選して喜んでいたのも束の間、コロナ禍で無観客開催となり、残念で涙を飲んだ方も多いのでは?あれから3年たち、通常通り観客を入れての「第33回オリンピック競技大会」が、7月26日~8月11日にてフランスのパリで開催されます。いよいよカウントダウンですね!
ギリシャは言わずと知れたオリンピックの発祥地。この「平和の祭典」を生み出した国に敬意を表して、オリンピックの開会式にはギリシャ選手団が青と白の国旗をたなびかせながら、いつも一番手で入場します。
オリンピックの開催中ずっと聖火台に灯されている聖火も毎回ギリシャのオリンピック発祥の地「オリンピア」という都市で太陽光から採火され、ギリシャ各地を聖火リレーで走ったあと、首都アテネにて次の開催地に手渡されるのです。
今回は、オリンピックの歴史のご紹介と共に、4月にオリンピアで見学した聖火の採火式とパナティナイコスタジアムでの授与式をレポートします。
目次
オリンピックの起源、 古代オリンピックとは?
<古代オリンピックで短距離走が行われたオリンピアのスタジアム>
古代オリンピックの起源は、オリンポス12神の中の最高神「ゼウス」に捧げるために、ギリシャのオリンピアで4年ごとに開かれた運動競技の祭典(オリュンピア祭)。紀元前776年から紀元後393年まで続きました。
当初の競技は陸上、レスリング、ボクシング、円盤投げ、槍投げなど。当時、オリンピック競技会に参加できたのは、都市国家(ポリス)と植民市の成人男子のみ。なんと、一糸まとわず全裸で競技が行われていました。競技の様子は、発掘された壺などにも描かれています。
会場へ女性・子供・奴隷の入場は禁止されていたので、男装して忍び込んだ女性もいたそうですが、見つかると重罪に問われました。「肉体や精神を鍛錬し向上させることが、人間が神に捧げられる最高のもの」という理念のもと、神に近づくために選手たちは努力を重ねました。当時はメダルや賞金などもなく、勝利しても得られるのはオリーブの葉の冠だけでしたが、国に帰れば「神格化」されたヒーローですから、それなりの報酬や名誉が与えられたそうです。
都市国家間の戦争が絶えなかった古代ギリシャ。でも、オリンピック開催の前後3か月は「五輪停戦布告」が出され、何と1000年以上もそれは守られ、一度も戦争による中止はなかったとか。高額の罰金があったとか、神の怒りを恐れたとか、色々な理由はあると思いますが、「平和の祭典」と呼ばれるのはこのような故事によるものです。
紀元前2世紀からギリシャがローマの属州となり、4世紀になると皇帝テオドシウス1世によって異教禁止令が出されました。古代オリンピックはゼウス神をあがめる「異教」の祭典なので、幕を閉じる運命となったのです。
復活後の近代オリンピック
<近代オリンピック発祥地 アテネのパナティナイコスタジアム>
その後、長い時を経てオリンピックが復活し、近代オリンピックが始まったのは古代オリンピックが廃止されてから約1500年後の1896年。
「若者の教育、体と心の調和、向上心、世界平和への貢献」などを理念に掲げ、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱と熱意により、記念すべき第1回近代オリンピックはアテネのパナティナイコスタジアムで開催されました。
オリンピックは、以後、戦争により3度中止されたり、ドーピング・商業化・プロ/アマ問題、招致スキャンダルなど、さまざまな困難や批判などの荒波にもまれながらも、現在まで「平和の祭典」として人々に愛され、巨大化し続けています。
1964年、日本で初めて開催された東京オリンピックは、戦後の日本の経済的復興を象徴する画期的な出来事でした。その後、1972札幌、1998長野、2020東京(2021年開催)と、日本では4回開催されています。
オリンピック発祥地のオリンピアとは?
<世界遺産にもなっているオリンピアの遺跡とハナズオウの花>
オリンピック発祥の地オリンピアは、ギリシャ南部のペロポネソス半島西側にある静かな田園都市。首都のアテネから西に車で5時間程度の場所です。アルフィオス川とクラディオス川に挟まれ、松やオリーブなど自然豊かなのどかな風景に恵まれ、歴史・神話に彩られた素敵なところです。
ここは、古くからオリンポスの12神の中の最高神「ゼウス」の聖地として栄え、古代オリンピックは紀元前8世紀から「ゼウス神へ捧げる4年ごとのオリュンピア大祭」として始まったとされています。
現在も多くの遺跡が残っており、1989年にはユネスコの世界遺産として登録されました。今回訪れた4月は、濃いピンク色のハナズオウという花が満開で美しく、白く乾いた古代遺跡との好対照をなしていました。
オリンピア遺跡の見どころ
- 体育場「ギムナシオン」:短距離走や円盤投げなどのトレーニング場
- 闘技場「パエストラ」:レスリングやボクシングなど格闘技のトレーニング場
- 競技場「スタディオン」:長さ213メートル、幅約30mの競技場
- スタートとゴールに石灰石のラインが残っている
- フィリペイオン:フィリッポス2世が、紀元前4世紀にカイロネイアの戦いの戦勝記念に寄贈したイオニア式、円形の建物
- ゼウス神殿:紀元前5世紀に建てられた巨大な神殿跡。フィディアスの傑作とされる黄金と象牙のゼウス像が安置されていたと言われている
- ヘラ神殿:ゼウスの正妻ヘラを祀った紀元前6世紀頃の神殿で、オリンピックで使われる聖火を採火する場所
<オリンピア遺跡の中のフィリペイオン>
併設されている博物館も、「ゼウス神殿の破風の彫刻」「ニケ女神像」「赤子のディオニソスをあやすエルメス像」や当時の陶器、彫刻、生活用品など、オリンピア遺跡から発掘された素晴らしい展示物があふれています。
<オリンピア博物館内に展示されるヘルメス像の彫刻>
オリンピック聖火の採火式
4月16日、そんな古代遺跡のオリンピアで、2024パリオリンピック聖火採火式が盛大に行われました。トーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長やパリ2024大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長をはじめとする要人が出席。
ギリシャ神話では、火はプロメテウスが神々から盗んできたものと言われ、古代ギリシャ人は火を神聖なものと考えていました。古代オリンピックの際も神殿では、火が灯されていたそうです。
近代オリンピックで聖火が導入されたのは、1928年のアムステルダム五輪から。聖火リレーは1936年ベルリンオリンピックから始まりました。今回は、本番さながらの採火式のリハーサルと、式典と聖火リレーの本番を見学してきました。
<ヘラ神殿の前で行われる聖火採火式>
「炉の女神ヘスティアー」を祀る古代の巫女さんの衣裳を身にまとった彫の深いギリシャ美女達が、大自然と遺跡に囲まれた神聖な雰囲気の中、ヘラ神殿に近づいてくる様子を見ると、もう古代にタイムスリップしたような気分になります。
<巫女さん役は美人揃いの女優さんが担当>
神に祈りを捧げる声が、遺跡中に響き渡り厳かな雰囲気に包まれます。
半球形の凹面鏡を使って太陽光を一点に集中させ、1人の巫女が聖火トーチをかざすと・・・お天気も良かったので、すぐに見事に点火され、拍手と歓声が沸き起こりました。
本番はお天気が曇りで太陽光から採火できそうになかったため、このリハーサルで採火した聖火を使用したようです。
聖火リレーを見学!
<聖火を聖火ランナーに手渡すためにスタジアムに移動する巫女さん>
聖火が無事点火されると、それを隣の競技場の方に運んでいき、聖火リレーの晴れある第一走者のトーチに火を移します。そして、この聖火は、スポーツ選手や有名人、一般人も含む聖火ランナーによって、オリンピック開催都市パリまで運ばれていきます。
第1走者はギリシャ選手のステファノス・ヌトゥスコス氏(東京2020ボート男子シングルスカル金メダリスト)でした。今回は、オリンピアと姉妹都市関係にある愛知県稲沢市稲沢市の中学生たちも、聖火リレーに参加していましたよ!
<聖火を第一走者の聖火ランナーに手渡す儀式>
ギリシャ中を11日かけて聖火リレーで回ったあと、首都アテネのパナティナイコスタジアムに聖火が到着し、次の開催地であるパリの聖火ランナーに手わたされたのは、4月26日です。
聖火授与式が行われたパナティナイコスタジアムとは?
<1896年に第一回近代オリンピックが開催されたパナティナイコスタジアム>
パリへの聖火授与式が行われたアテネのパナティナイコスタジアムは、馬蹄形の美しい競技場で、第1回近代オリンピックが開かれた会場として有名です。元はアテナ女神を祀る「パナテナイア祭」の競技場として使われていた場所でした。
ローマ帝国支配時代には、アテナイの富豪ヘロデス・アッティコスが総大理石に改築しましたが、その後、大理石の大半が持ち去られ、1869年に建築家エルンスト・ツィラーが競技場跡地を発掘調査・修復し、1896年の第1回近代オリンピックで復活しました。ギリシャ人富豪のゲオルギオス・アベロフの資金により白大理石で改装されたため、別名カリマルマロ(良い大理石の意味)という愛称で呼ばれ、彼の彫像が入り口に建っています。
<スタジアム内には、歴代のオリンピック開催地の刻まれた碑がある>
収容人員は約5万人で、現在でもアテネマラソンのゴールや、コンサート・競技会の会場として使われています。ミュージアムには、歴代オリンピック開催地のポスターやトーチ、聖火台、採火のための反射鏡他、1964年と2021年の東京オリンピックのポスターやトーチも展示されています。
<ミュージアムには、アテネオリンピックや東京オリンピックのポスターが>
パリオリンピックの聖火授与式
パリオリンピックの聖火は、上記のパナティナイコスタジアムで行われた4月26日の式典で、正式にフランスに引き継がれました。
この式典は、4月にオリンピアの遺跡で行われた採火式で聖火が灯された後、11日間に渡りギリシャ全土を巡った後、聖火リレーの最後を飾るイベントです。
聖火がスタジアムに入場した後、最後の聖火ランナーであるイオアニス・フォントゥリス(水球銀メダリスト)が聖火台に炎を灯し、そこから大司祭によって聖火台の炎で点灯された最後の聖火トーチは、ギリシャオリンピック委員会スピロス・カプラロス会長に手渡され、次に、パリ2024オリンピック・パラリンピック大会組織委員会に、無事引き継がれました。
<オリンピアで採火された聖火が、アテネの聖火台に到着>
まとめ
今年は日本とギリシャ外交樹立125周年となり、2024年5月には、秋篠宮家の佳子様もギリシャを公式訪問され、アクロポリスのパルテノン神殿、パナティナイコスタジアム、ケルキラ島などをご訪問されました。
古代オリンピック、近代オリンピックの歴史について知って頂き、聖火を見たら、オリンピックの発祥地ギリシャのことを思い出して、より身近に感じて頂ければ幸いです。
パリ2024オリンピックの聖火は、地中海を横断し、5月8日にフランス・マルセイユに到着。その後、聖火はフランス全土を巡り、2024年7月26日のパリ2024オリンピック開会式へ向けて、今も着々と走り続けています。
開会式当日、この聖火はパリ大会のメイン会場に設置された聖火台に、最終ランナーによって点火され、閉会式の日まで灯され続けるのです! オリンピックの「平和の祭典」という理念を受け継ぎ、安全で感動的なスポーツの祭典になりますように!
文・写真・サラサ/提供元・たびこふれ
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