ウクライナ戦争だけではない。中東のイスラエルでもガザ紛争が続いている。イスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエルに奇襲テロを行い、1200人余りのイスラエル人を殺害。イスラエル側の報復攻撃では多数のパレスチナ人が犠牲となっている。華やかな五輪大会の開会式に集まる人々と、戦争下にいる人々の間の不均衡さに心が落ち着かない。

パリ五輪大会開会式から2日後の7月28日はオーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告をした110年目に当たる。サラエボでフランツ=フェルディナント大公と妻のゾフィー夫人が1914年6月26日、セルビア人ナショナリストによって暗殺された。それが契機となり、同帝国とセルビア間で戦争が勃発すると、戦争は瞬く間に欧州全土に広がり、世界的な規模の戦争となっていった。同戦争で950万人以上の兵士がなくなり、650万人の民間人が犠牲となった。戦争では最終的には中欧を650年余り支配してきたハプスブルク王朝は崩壊した。

歴史を振り返ると、人は何時も戦ってきた。砲丸の音が絶えた時、人はスポーツ祭典などのイベントを考える。ナチス政権下で行われたベルリン夏季五輪大会(1936年)もそうだった。パリ大会はウクライナで戦いが続き、中東やアフリカで紛争が起きている時だ。東京の夏季五輪大会(2021年7月開催)は世界で数百万人が犠牲となったコロナのパンデミック下の大会だった。ちなみに、IOCの要請にもかかわらず、紛争国間の”五輪休戦”は実現されなかった。

スポーツと政治は全く無関係だという人もいるが、人は限りなく政治的な存在だ。肌の色の違い、民族の違い、宗派の違いがスポーツの世界でも争いや紛争の種になることがある。オーストリア代表紙プレッセは26日の1面トップで「なぜ世界はオリンピック大会を必要とするのか」というテーマで記事を載せていた。「五輪大会は戦場ではなく、競技場での戦争だ。その意味で代理戦争だ」といった極端な主張も聞く。メダル獲得数の国別ランクリストをメディアは好んで掲載する。共産主義世界ではスポーツは国をアピールするプロパガンダの手段と受け取られてきた、といった具合だ。選手やアスリートから純粋なアマチュアリズムはもはや期待できない。

いずれにしても、欧州の戦時下でのパリ五輪大会が始まった。大会が安全に運営され、参加するスポーツ選手は自身のベスト記録を目指し、スポーツの醍醐味、面白さを伝えてほしい。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。