失血死がなくなるかもしれません。
2021年8月9日にMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者たちにより『Nature Biomedical Engineerting』に掲載された論文によれば、動脈などからの激しい出血がある状態でもわずか15秒で止血できる接着剤の開発に成功したとのこと。
新たに開発された接着剤はフジツボが濡れた岩やクジラの皮膚に、くっつくために使う仕組みを参考に作られており、水気によって「ヘタる」ことなく、瞬時に止血が可能です。
実用化されれば、古くから死因の上位を占めてきた失血死を、激減させることができるでしょう。
新たな接着剤は、いったいどんな仕組みで傷を塞ぐのでしょうか?
※本記事には血管モデルやブタの肝臓からの出血描写を含む動画が含まれておりますので、苦手な方はご配慮ください。
目次
- 医療が進んでも停滞していた止血技術をフジツボが切り開く
- 濡れた岩やクジラの皮膚にも貼り付けるフジツボの秘密
- 「フジツボ接着剤(止血剤)」の商業化は米陸軍も注目している
医療が進んでも停滞していた止血技術をフジツボが切り開く
医療の進歩により、数多くの病気を素早く治せるようになってきました。
しかし止血技術だけは停滞したままでした。
現在使われている止血剤は血液が固まる速度を速めるための成分が含まれていますが、基本となる血液凝固は非常に穏やかなプロセスです。
そのためいくら早めたところで、動脈から噴き出るような、激しい出血に対しては無力でした。
そこで近年になって、傷口を強力な接着能力を備えたシールで防ぐ試みが行われるようになってきました。
ただ既存の接着剤の多くは水分に弱く、血にさらされることで接着能力が失われてしまいます。
接着剤にオムツなどに使われる吸水素材を混ぜるなど、水気の影響を抑える工夫がなされてきましたが、根本的な解決には至っていません。
しかし自然界には、水気をものともせず強力な接着を可能にする生物が存在しました。
その生物とは、誰もが良く知るフジツボです。
濡れた岩やクジラの皮膚にも貼り付けるフジツボの秘密
自然界に生息するフジツボは、海岸の岩肌やクジラの皮膚など、濡れた表面にも強力に接着できることが知られています。
その接着能力の詳細は不明のままでしたが、2018年になってついに解明されました。
フジツボは水に弱い接着成分を水を弾く油で包み込んだ状態で分泌することで、濡れた岩やクジラの皮膚などの表面にある水や汚染物質を押しのけ、接着を可能にしていたのです。
そこで今回、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者たちは、このフジツボの仕組みを止血剤に取り入れました。
具体的には、既存の吸水素材(ポリアクリル酸)を含んだ瞬間接着剤(NHSエステル)を医療用シリコンオイルに混ぜてペースト状にしたものになります。
研究者たちはこの新たな接着剤を早速テストしてみました。
結果、非常に有望であることが判明します。
新しい接着剤は、上の動画のように、激しい動脈からの出血モデルに対して、ペーストを塗り込んで15秒ほど押さえることで、ほぼ完全な止血が成し遂げました。
また上の動画のように、生きているブタの肝臓に対して行ったテストでも、瞬時の完璧な止血に成功します。