1855年2月8日の朝、雪の積もったイングランド南西部にあるデヴォンシャーという地域で、雪上に延々とつけられた謎の足跡と思しきものが発見された。トムシャップ村の小学校校長は、自宅の玄関の前にその奇妙な跡が残っていることに気付いたが、当初は蹄鉄をつけた馬が残したものだろうと考えた。
U字型をしていたその足跡は、長さ約10cmで幅約7.5cmと確かに馬の蹄鉄のようにも見えたが、奇妙なことに一直線に点々と残されていたのである。しかも驚くべきことに、高い塀に向かって足跡がぶつかっているにも関わらずその塀の向こう側には足跡が続いており、さらには2階建ての家屋の屋根にまで足跡を残していたのである。その後の調査によれば、足跡は遠く離れた街にまで続いており、その総延長は60km、長く見積もると160kmにも及ぶほどであったという。
この足跡は、動物学者がレポートを提出するほどの騒動へと発展したが、誰も合理的な説明をすることができず、さらに雪の上に残されていたという事情から、その後溶けて消えてしまったことも検証を困難にする要因となった。こうして、この謎の足跡は「悪魔の足跡ではないか」と囁かれるようになり、「デヴォンシャーの悪魔」と呼ばれ恐れられたという。
この足跡の正体については、様々な説が唱えられるようになった。アナグマの足跡ではないかという説があり、アナグマが前後の足を重ね合わせるような歩き方をするということから当初は有力視されていたものの、明らかに足跡が異なっており、しかもアナグマの跳躍力では家屋の屋根に登ることはできないとして否定された。
この他、ネズミが大量発生したという説、白鳥などの水辺の鳥の足に蹄鉄型の氷が付着していたがしゃ説、何らかの事情で飛び回っていた熱気球から金具がぶら下がりその跡がついていったのではないかという説など、いくつもの説が浮上するも、いずれも決定打に欠けていたために悉く否定されることとなった。
中には、「竹馬に乗ってつけた」と名乗り出た人々などが現れたり、そもそも足跡がU字ですらなく集団ヒステリーだったのではないかとする説まで唱えられたこともあった。160kmというのは100マイルというきりの良い値でもあったため、尾鰭がついて拡散されていったデマだった可能性も考えられているなど、諸説紛々することとなった。
なお、およそ150年後となる2009年に再びデヴォンシャーで発見された謎の一本筋の足跡については、鹿か兎のものであるという判断がなされて一応の解決に至ったという。このことから、かつての足跡も悪魔ではなく何らかの動物だったのではないかとの意見が今も根強く残っている。
この事件の15年前にはスコットランドの山岳地帯で謎の生物の足跡が発見されており、そのこともあって悪魔の足跡は大々的に評判になったという。山岳地帯で発見された足跡も「普通の四足獣のものではない」ことが判明したのみで謎のままとなっている。スコットランドと奇妙な足跡は、昔から何らかの因縁があったのではないか、とは物理学者中谷宇吉郎の談である。
ところで、悪魔の足跡として語り継がれるこの事件、実は日本でも似たようなものが見つかっている。2004年には和歌山県田辺市の田んぼに、一直線の謎の足跡らしきものが残されているのが発見されている。また同年に千葉県船橋市では、畑の上に同様の足跡が点々と残されていたのである。
これらの足跡は、スコットランドとは異なり蹄鉄型ではない。しかしながら、田辺市の事例は、地元に古くから伝わる「がしゃんぼ」と呼ばれる妖怪が現れたのではないかとも言われるほど話題となった。そして、船橋市の事例では足跡を重ねて歩行するというキツネによって付けられたものである可能性も考えられたが、船橋でキツネの目撃が数十年来確認されていないことから、結局正体が謎のままに終わっている。
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文＝黒蠍けいすけ（ミステリーニュースステーションATLAS編集部）
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提供元・TOCANA
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