2024年1~6月の電気自動車(EV)の国内販売台数が前年同期比39%減となり、新車全体に占めるEVの割合がわずか1.6%だったことがわかった(日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会の発表による)。米国、さらにはEV先進国である欧州の国々でもEVの販売が減速しており、世界的なEVシフトに見直しの機運が高まる一方、ハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が増加しており、HVに強いトヨタ自動車をはじめとする日本の自動車メーカーが勢いづいている。背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 環境意識の高まりを受け、数年前から世界の自動車市場はエンジン車からBEV(電動車)へ大きく舵を切っている。先陣を切って野心的な目標を掲げたのがEU(欧州連合)だ。2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げている(23年に方針を一部修正)。米国も22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与。目標年を明確にして全新車のZEV化を宣言している州もある。

 現時点でもっともEV化が進んでいるとされるのが中国だ。23年の新車販売に占める新エネルギー車の比率は32%であり、中国政府は27年までにこの比率を45%に引き上げる目標を発表している。

 だが、世界的にEVが失速している。6月のEU域内のEVの新車販売は前年同月比1.0%減。入れ替わるようにHVが伸びており、1~6月期のHVの新車販売は前年同期比22.3%増、新車に占める割合は29.2%となり、EVの12.5%を大きく引き離す。米国でも新車販売比率でHVがEVを上回る月が出ている。米国テスラの24年4~6月の世界販売台数は前年同期比4.8%減となり、2四半期連続で減少。同社は全世界の従業員の10%以上の削減を余儀なくされている。

 そして日本でもEV販売は前述のとおり低調。EVで車種別販売台数1位の日産自動車「サクラ」の1~6月の販売数は前年同期比38%減の1万2082台、日産「リーフ」は61%減の2550台となっている。

自動車メーカー各社は戦略転換

 EV失速を受けて自動車メーカーも戦略転換に迫られている。独メルセデス・ベンツは2月、2030年に新車販売のすべてをEVにするとしていた目標を撤回し、20年代後半にxEV(EVとプラグインHEV)を50%にすると修正。すでに新型エンジンの開発に着手したもよう。米フォード・モーターはカナダの工場で25年から予定していたEV生産を27年に延期し、代わりにガソリンエンジン搭載車のピックアップトラックを生産すると発表。米ゼネラル・モーターズはPHVの生産を27年までに再開すると発表しており、ミシガン州の工場での電動ピックアップトラックの生産拡大の延期を発表している。

 アップルは2010年代の半ばから完全自動化機能を搭載するEV「アップルカー」の開発に取り組んでいたが、2月に中止が明らかとなった。

 各国政府の方針にも変化がみられる。米国政府は3月、普通乗用車の新車販売のうちEVの占める比率を32年までに67%にするとしていた目標を、35%に引き下げた。今年秋の大統領選挙の候補者であるトランプ元大統領はEV推進に否定的とみられるため、もし同氏が選出されれば米国のEV普及は大きく後退すると予想されており、世界の自動車市場の動向に与える影響は大きい。

「一言でいうと、消費者にとってEVを購入する積極的な理由がないということ。価格はガソリン車より高く、HVよりも2~3割ほど高いのに加え、流通量が少ないため部品が出回っておらず故障時の修理代が高額になる傾向があり、構造がエンジン車とは大きく異なるため修理自体が整備工場でできない可能性もある。充電ステーションも少なく、特に地方では選択肢になりにくいし、寒さに弱いという評判もあるため寒冷地では避けられる。中古車市場でも需要が少ないため、下取り価格がエンジン車と比べて低くなることも想定される」(自動車メーカー関係者)

 メーカー側にとってもEVに積極的にはなりにくい面があるという。

「製造コストのうち大きな部分を占める車載電池の原材料であるレアメタル・レアアースは、埋蔵地が途上国に偏っており、調達には地政学的なリスクが伴う。安定的な調達のため中国は政府が主導するかたちで埋蔵国の囲い込みを進めており、欧米や日本の大手メーカーですら原材料の調達に苦労し始めている。既存の大手自動車メーカーにしてみれば、エンジン車と比べて使用する部品が少なく製造が容易なEVが台頭すれば、ベンチャーや他業種企業の参入により優位性を失ってシェアを食われる可能性もあり、参入障壁が高いエンジン車が市場の主力であり続けるほうが都合が良い。

 また、欧州がEVにシフトしたのは、ディーゼルエンジン不正でフォルクスワーゲンをはじめとする欧州の自動車メーカーが脱ディーゼルエンジンに舵を切らざるを得なくなったからだが、蓋を開けてみれば世界のEV市場では中国勢の席巻を許す結果となってしまった。そのため、自国の自動車産業保護のためにEV推進を転換させる可能性も十分にある。

 もっとも、原材料の調達から製造、走行、廃棄までをトータルに考えると、EVのほうがガソリンエンジン車より環境負荷が低いとはいえず、そうなるとEV推進の大義がなくなるので、各国政府は自ずとEV推進の旗を降ろさざるを得なくなる」

PHVという現実解  こうした状況のなかでHVとPHVの販売が伸びており、これが日本の自動車メーカーの追い風になるとの見方もある。たとえばトヨタは24年3月期決算が過去最高益になった要因として世界的なHV販売の好調をあげているが、トヨタの今年1~6月の米国におけるHV販売台数は前年同期比66%増の41万台となっており、トヨタの北米販売に占めるHV比率は3割にも上っている。米国HV市場でのトヨタの販売シェアは実に6割近い。

「1充電あたりの航続距離が400km以上のEVも増えていますが、日常的に400kmも走行するケースは一般的ではなく、オーバースペックといえます。そこで求められてくるのがPHVです。最小限のバッテリを搭載して日頃は電動モーターで走行し、必要時のみ熱効率が高くクリーンなエンジンで走行するような車両であれば、ユーザの利便性を損なわずに低い環境負荷を保てるでしょう。採掘・生産コストが高いレアアース、レアメタルを大量に使用するEVと比べて、エンジン車は原材料が比較的安価であり、技術的な蓄積が豊富なため製造コストが低く済む点もメリットです」(日本大学理工学部教授の飯島晃良氏/24年6月7日付け当サイト記事より)

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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