■チベット密教の奥義の“タルパ”なのか?
SFとスーパーヒーローコミックスのクリエイターの超常現象体験を編纂した書籍『Mutants and Mystics: Science Fiction, Superhero Comics, and the Paranormal』(2011年刊)で、著者のジェフリー・クリパルは、コミック脚本家のダグ・モエンチが体験した戦慄の出来事を紹介している。
家で脚本を書いていたモエンチだったが、悪役である黒頭巾のサルがヒーローの家に押し入って拳銃を突きつけて強迫するシーンを書き終えたところだったのだが、階下で妻が呼んでいるので執筆を中断して一階へと降りていったという。一階のリビングルームに入った彼がそこで見たものは、フードをかぶった黒装束の男が妻の首に手を回して頭に拳銃を突きつけている光景であったのだ。物語で描いていた光景が現実になってしまったのである。
これを強いて説明すれば、広い意味で彼が見た“幻覚”ということになるのだが、モエンチは一瞬であれ現実の空間の中ではっきりとこのフードをかぶった黒装束の男を見たということだ。これを単に“幻覚”で片付けてしまっていいのだろうか。
ギブスンはかつてチベット密教の奥義である“タルパ(tulpa)”について言及したことがあるという。タルパとは、意識を集中させることで無から魔術的な物体や人格のある存在を作り出す秘術である。日本語では“思念体”とも訳されている。
チベット密教研究のパイオニアであり、1928年刊行の『Magic and Mystery in Tibe』(邦訳『チベット魔法の書』徳間書店)著者であるアレクサンドラ・デビッド=ニールは同書の中で、タルパを作りあげた経験を語っている。
「タルパを見ることはほとんどありませんでしたが、私の疑い深さが自分でタルパを作る体験に導いてくれました。私の試みはある程度の成功を遂げたのです」(同書より)
ニールは意識を集中させることでタルパを1時間ほどは“維持する”ことができたという。人間にもしタルパを作り出せる能力があるのだとすれば、クリエイターたちが架空のキャラクラーに実際に出くわすというのも不思議ではないのかもしれない。
そしてこのタルパは「スレンダーマン」や「黒い目の子ども(Black Eyed Kids、BEK)」、「口裂け女」などの都市伝説的な存在を裏付ける可能性もはらんでいる。クリエイティビティときわめて深い関係がありそうな、このタルパについての研究がさらに深まることに期待したい。 参考:「Daily Grail」、ほか
※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。
文=仲田しんじ
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提供元・TOCANA
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