AP通信によると、ハリス副大統領は、民主党の大統領候補指名に必要な代議員の数を集めたという。AP通信の集計によると、ハリス氏は既に3936人の代議員のうち2214人を獲得しており、単純過半数を大きく上回っている。数週間で党大会が開催される。それまでにハリス副大統領以外、現時点では有力な候補者がいないことから、ハリス支持で最終的には党内が一致すると予想される。

ところで、トランプ氏はバイデン氏の撤退表明、ハリス支持を聞いて「ハリス副大統領はバイデン氏より勝利しやすい」と吐露したという。しかし、実際はバイデン氏よりハリス副大統領との戦いがトランプ氏にとっても厳しいのではないか。トランプ氏もそれを直感しているから「ハリス副大統領、戦いやすい相手」と支持者に向けて強気の発言を飛ばしたのではないか。

まず、ハリス氏は59歳とまだ若い。そして米国の歴史で初の女性、初の南米系及び南アジア系アメリカ人の副大統領となった。その前には2010年にカリフォルニア州司法長官に選出されている。TV討論会ではバイデン氏の時のようにはいかないだろう。むしろ、トランプ氏自身がファクトを重視する討論で守勢に追い込まれるかもしれない。母親はインド出身の生物学者シャマラ・ゴパラン、父親はジャマイカ出身の経済学者ドナルド・ハリス氏だ。本人はハワード大学で政治学と経済学を専攻し、カリフォルニア大学のイスティングズ法科大学院で法務博士(J.D.)を取得している。知的レベルではトランプ氏の守勢は明らかだ。ちなみに、ハリス氏は選挙運動では、①中絶の権利、②厳しい銃規制、③中産階級の強化の3点に重点を置くと述べている。

ハリス副大統領にも多くの弱点もある。米国は現在、インフレ急騰と移民問題を抱えている。トランプ氏はバイデン政権下で移民問題を担当したハリス副大統領の失政への責任を追及できる。民主党内の左派に属するハリス氏は堕胎や性的少数派(LGTB)の権利を積極的に擁護しているから、トランプ氏は保守派の立場から攻撃できる。もちろん、ハリス氏は防戦だけではなく、トランプ氏を攻撃してくるだろう。数件の訴訟を抱えるトランプ氏に対し、州司法長官でもあったハリス氏はトランプ氏の法的問題をより厳しく追及できるはずだ。

トランプ氏の副大統領候補であるJ.D.バンス氏は、ハリス氏を「バイデン氏よりも百万倍悪い」と評し、「ハリス氏は現職の政策にも責任がある」と主張している。

いずれにしても、トランプ氏の暗殺未遂事件の余波が薄まり、本戦までトランプ対ハリスの本格的な戦いが予想される。それも短期決戦だ。ハリス氏がトランプ氏に勝てるかどうかは不明だが、多くの民主党員は、共和党が米国議会の両院を支配するのを防ぐことを期待している。11月の選挙では、下院全議席と上院の約3分の1の議席が改選される。

参考までに、ハリス副大統領はバプテスト派のキリスト教徒、トランプ前大統領はプロテスタントの一派である長老派教会(Presbyterian Church)に所属している。米国の大統領選では宗教票の行方も注目される(「米大統領選の行方を握る‘宗教票’」2024年4月17日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。