23日付「読売新聞」記事は、東京女子医科大学が推薦入試において、受験生の親族から寄付を受領し、その金額を貢献度として点数化していると報じた。21年には約100人の医師が一斉に退職する騒動が起き、3月には一般社団法人法違反(特別背任)容疑で大学本部が警視庁による家宅捜索を受けるなど不祥事が続く同大。近年はたびたび不祥事を起こすたびに国の私学助成金の減額・支給停止をされてきたが、経営破綻も取り沙汰される状況となっている。大学医学部の入試では、受験生サイドからの寄付金が合否を左右するケースは多いのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 大学入試の形態は多様化しており、入学者のうち一般入試とそれ以外の入試を経て入学する学生の数が同程度という大学も少なくない。推薦入試には、大きく指定校制推薦と公募制一般推薦の2つがある。前者は高校からの推薦状によって受験資格が生じるもので、大学が指定した高校に限られ、高校ごとに出願人数も定められている。いわゆる「推薦」という言葉を聞いて多くの人がイメージするものだ。後者は、どの高校の学生も受けられるもの。両方とも高校生活での取り組みをまとめた書類、小論文、面接などで審査され、大学入試共通テスト(旧センター試験)を受験することが条件となっているケースもある。

 このほか、AO(アドミッションズ・オフィス)入試は、高校時代の各種活動、面接、小論文に基づき審査するもの。たとえば東京大学のAO入試では数学オリンピック入賞歴や高い専門性がある論文の執筆歴、TOEFLやSAT(米国の大学受験向け統一試験)で一定の点数を得ていることなどが必要で、さらに大学入試共通テストで一定の点数以上を取る必要があるとされ、難関大学のAO入試は一般入試よりハードルが高いとされる。

 読売新聞記事によれば、東京女子医大の推薦入試は同大の同窓会組織「至誠会」が推薦依頼を受け付け、至誠会が審査して同大に推薦する学生を選別するという形態(23年度まで)。学生が至誠会に提出する推薦審査依頼書には寄付の実績を記載する欄があったという。

「公募制の推薦だと思われるが、一同窓会組織が推薦入試の受験生の選別を行うという形態自体、かなり不自然で問題がある。一般的に大学の同窓会組織は寄付金集めにおいて重要な役割を担っており、その同窓会組織が合格基準があいまいになりがちな推薦入試に絡めば、自ずと受験生の合否審査と寄付金の実績が結びついてしまい、明らかに不健全。すでに文部科学省が調査に着手しているとのことだが、もしクロと判定されれば来年度の私学助成金の減額もしくは不支給は免れず、経営悪化がより深刻になる」(大手予備校関係者)

 2018年に発覚した東京医科大学の不正入学事件では、受験生サイドからの寄付金が入試の合否を左右していた実態が明るみになったが、医学部入試において同様の事例は珍しくないのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。

「最大のものは02年に発覚した帝京大学医学部の裏口入学事件です。7年間で150億円もの寄付金を集め、そのうちの65億円がグループの財団法人などで所得隠しされていたとされています。ただ、これはあくまでも判明した分であり、1970年代から寄付があったともいわれています。この事件をきっかけに、02年10月に文部科学省の事務次官通知で入試の際の寄付金収受が禁止されました。

 私立大学医学部では2000年代以前は水面下ではあったといわれています。1979年には裏金(寄付金)を支払ったのに医学部に裏口入学できなかった保護者が、斡旋した予備校を訴えるという東京ゼミナール事件が起きています。

 2000年代以降、表面的にはなくなっています。ただ、水面下ではひそかに続いているともいわれています。これは、寄付金を集めることで財政を安定させたい大学側、寄付金を払ってでも子弟を入学させたい保護者(多くは開業医)側、双方の都合がマッチしているからです。入学前に寄付金を求めることはさすがにしないにしても、合格決定後となると話は別です」

 予備校関係者はいう。 「一昔前と比べて減ったものの、ごく一部の医学部で続いているという言い方が正しいかもしれない。東京医科大学の事件では受験生の親と大学の間に立つブローカーが介在するケースだったが、以前からあるように医学部専門予備校が入口になって寄付金で点数を買うというかたちが典型的。だが、現在ではこのようなことをやっている予備校や医学部は本当にごく一部だとみられている。

 点数の金額の相場としては昔から『1点あたり100万円』ともいわれているが、100点だと1億円なので、自分の子どもを医学部入れるためにそれくらいの金額を出す人はいるだろう。医学部の入試は筆記試験と面接の点数で判定され、基準があいまいな面接が含まれるため、明確に『あと何点必要』とはなりにくい。実態としては『●●円払えば入学させますよ』というかたちもあるようだ。ただ、大学側も在校生の医師国家試験の合格率が悪いと受験者数の減少につながるので、裏口入学的なことをやっている大学でも、そのルートで入学させる人数の枠は少ない。

 東京女子医大は同窓会組織が窓口的な立ち位置になって、そこから推薦を受けるかたちになっており、いわば大学自身が直接、裏口入学に関与していたようなもの。裏口入学どころか、ブローカーすら介さず堂々と入試不正をやっていたようなもの。驚きを通り越して呆れるばかりだ」(予備校関係者)

学費値上げで偏差値低下

 東京女子医大の学費は高いことで知られている。入学1年目は入学金や授業料、施設設備費など合計で約1145万円、2年目以降は年約695万円で、6年間で計約4621万円にも上る。もっとも学費が高いとされる川崎医科大学の約4700万円に迫る金額となっている。ちなみに国立大学の医学部の学納金は文科省の省令で年間53万5800円と定められており、6年間の総額は入学金含めて約350万円。

「医学部の偏差値と学費の高さは反比例する傾向があり、東京女子医大は以前は私立大学の医学部のなかでは中位ゾーンのランクだったが、たび重なる不祥事で徐々に偏差値が下がっていたところに21年度の大幅な学費値上げが加わり、現在では下位クラスにまで落ちている。それでも『医師になれるなら』ということで志望する人は一定数いる。

 ただ、もし寄付金で入試の合否が左右されているとなれば、文科省も来年度の私学助成金を不支給にするだけでは済まさないかもしれず、単独での行き残りは困難になってくる。経営陣の刷新を含めて解体的な出直しを迫られることになる」(大手予備校関係者)