バンス上院議員の投票履歴・発言・立場表明を抜粋 ① 投票履歴

全部の投票履歴を確認しているわけではないが、特に重要な予算関連についてはNOに反対してきた。

・Fiscal Responsibility Act(財政責任法案):NOに投票

2025年1月1日まで連邦債務の上限を停止する法案にはNOを突き付けた。

「歳出削減はできない。歳出削減をすれば軍事支出が減少するだけで、中国の脅威が増すだけだ」と発言している。

また、赤字削減はバンス上院議員にとって優先課題ではないと2023年5月に発言している※12)。

・2024年国防権限法(NDAA) 2023/7/28:NO

ウクライナ戦争のための追加軍事援助を何年にもわたって実施することが盛り込まれていたためと声明を発表している※13)。

NDAAに盛り込まれたウクライナ支援は$3億だったが、それでも強く反対。

・政府閉鎖回避のためのつなぎ予算 2023/9/30:NO ・2024年 年度予算 2024/3/23 :NO

② あらゆる純増税に例外なく反対

AMERICANS FOR TAX REFORM( 全米税制改革協議会)の「納税者保護誓約 (Taxpayer Protection Pledge) 」に署名している。有権者に対して、あらゆる純増税に例外なく反対するという立場を表明している※14)。

③ FTCカーン委員長の反トラスト法違反訴訟を称賛

FTCカーン委員長が巨大IT企業に対して反トラスト法違反で強気に提訴していることを支持。バンス上院議員自身も、Googleを解体する時だと2024年2月に発信している。

かつては、ハイテク企業への投資家だったバンス上院議員は、大手ハイテク企業を声高に批判して解体を推進する議員となった。通信品位法第230条が適応されていても、ソーシャルメディア運営企業が享受するコンテンツに関する免責の範囲を狭めるべきだとも発言している※15)。

2024年初めに開催されたRemedyFestのイベントでは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカの独占禁止法制定の時代に立ち返り、当時の独占禁止法制定を提案した人物達が指摘した多くは現代にも当てはまると発言している。

There was a recognition that concentrated private power could be just as dangerous as concentrated public power,※16)

③ 親クリプト派

これは色々なところで論じられているので割愛するが、7月中にも暗号資産の規制緩和につながり、SECとCFTCの管轄についても抜本的に見直す法案をだすとされている※17)。

バンス上院議員の立ち位置は、伝統的な共和党員がもつpro-business(親ビジネス)でもないし、赤字削減・財政規律でもない。MAGAだけというわけでもない。彼自身は「ポストリベラル(postliberal right)」右派を自称している。ポストリベラルについては、私自身の言葉で説明できるほど理解できていないので一番適格だと感じたWSJ記事を引用する。

ポストリベラリズムは新しく、まだ進化している。その最も明確な説明は、デニーン氏の2023年の著書「レジーム・チェンジ(体制転換)」の中にある。同書は政治的なエリートを国民の利益により近い人々と入れ替えることを提唱。この新たなエリートたちは美徳・家族・コミュニティーを重視する「公益」保守主義によって導かれる、との期待を示している。

ポストリベラル派はまた、トランプ氏の「ディープステート(闇の政府)」批判に哲学的な重要性を加えている。「アドミニストレーティブ・ステート(行政国家)」は市民が自治のために協力する権利を奪うものと解釈されているからだ。バンス氏は「トランプ氏が再選されれば、連邦政府のかなりの数の中堅レベル官僚を即座に解雇すべきだ」との自身の提言について説明を求められると、こう答えた。「私にとって、これは小さな政府の話ではなく、民主主義に関わる話だ。官僚は選挙で選ばれた政府部門に対応する必要があるということだ」。ポストリベラル派のコミュニティーへのコミットメント(責任、献身)には、コミュニティー自治へのコミットメントも含まれる。

ポストリベラル派を提唱する思想家たちがカトリックだということは非常に興味深い。バンス上院議員もピーター・ティール氏の紹介をうけて、カトリックであり文芸批評家 René Girard氏に大きな影響をうけてカトリックに改宗したことを自身で告白している※18)。

正直、バンス共和党副大統領候補が第二次トランプ政権誕生時にどれだけの影響力をもつかはまだわからない。私は2028年、2032年の総選挙を考えている。トランプ政権時では、種まきをして、2028年または2032年から始動すると彼が予言した「10年後にはアメリカの製造業を支持しない共和党員であることが非常に難しくなる」とも一致するように思える。

もしかすると、「トランプ大統領が再び大統領に当選」よりもレジーム・チェンジに多大な影響をうけたバンス副大統領誕生のほうが、米国にとって大きな転換点を迎えることになるのではないだろうか。

【参照記事】 ※1:JD Vance Accepts GOP VP Nomination, Setting Him Up as MAGA Heir ※2:Senator J. D. Vance ※3:The role of religion in JD Vance’s family life ※4:govtrack.us ※5: SENATOR VANCE INTRODUCES THE BANK FAILURE PREVENTION ACT ※6: Safeguarding American Education from Foreign Control Act ※7:Vance has diverse record on tax, spending ※8:SENATOR VANCE: BIDEN’S FORCED TRANSITION TO ELECTRIC VEHICLES IS CRUSHING UAW WORKERS SENATOR VANCE: BIDEN EV AGENDA THREATENS U.S. AUTO INDUSTRY ※9: SENATOR VANCE UNVEILS LEGISLATION TO ELIMINATE BIDEN EV CREDITS & PROMOTE DOMESTIC AUTO MANUFACTURING ※10:SENATORS VANCE, HAWLEY & RUBIO DEMAND BIDEN BLOCK FOREIGN TAKEOVER OF U.S. STEEL ※11:Is There Something More Radical than MAGA? J.D. Vance Is Dreaming It. ※12: ※13:SENATOR VANCE OPPOSES FINAL PASSAGE OF THE NDAA SENATOR VANCE, COLLEAGUES REJECT INDEFINITE WAR IN UKRAINE ※14: JD Vance Knows Workers Pay the Corporate Income Tax in the Form of Lower Wages and Higher Prices ※15: Once a tech investor, Vance is now Big Tech critic ※16: J.D. Vance is anti-Big Tech, pro-crypto ※17: Vance floats crypto plan ※18:The Seven Thinkers and Groups That Have Shaped JD Vance’s Unusual Worldview

編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。