よく動物実験に使われるマウスですが、彼らは実験前にその内容に合わせて訓練を受けます。

例えば、2つのボタンを用意し、片方のボタンを押した時にだけ報酬を与えていくなら、マウスはそのルールを理解し、正解のボタンを押すようになります。

しかし、十分にトレーニングしてルールを理解したはずのマウスでも、実験中に度々間違うことがあります。

これまで科学者たちは、「マウスはそこまで賢くないのだから、完全にルールを理解していないのだろう」と考えてきました。

ところが、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)心理学・脳科学科に所属するキショア・V・クチボトラ氏ら研究チームは、マウスが故意に間違いを犯している可能性を指摘しました。

なんとマウスは、「違うことを行ったなら、どうなるだろうか」と考え、一種の探索行為として間違った方法を選択することがあるというのです。

研究の詳細は、2024年4月26日付の科学誌『Current Biology』に掲載されました。

目次

  • 十分に訓練されたマウスが「間違う」
  • 実験用マウスは一種の探索行為として「意図的に間違えていた」

十分に訓練されたマウスが「間違う」

十分に訓練されたはずのマウスは間違いを犯すことがあり、実験者を困らせてきた
十分に訓練されたはずのマウスは間違いを犯すことがあり、実験者を困らせてきた / Credit:Canva

報酬を与えて十分に訓練したはずのマウスが、時折間違いを犯すのはなぜでしょうか。

クチボトラ氏ら研究チームは、この疑問に対して、2つの仮説を立てました。

1つは、「マウスがストレスのためにミスを犯した」というもの。

もう1つは、人間と同じように「マウスが一種の探索行為として間違った方法を試している」というものです。

人間は、「いつもと異なる方法を試すと、どうなるだろうか」と考え、時にあえて損をするような行動を取ることがありますが、マウスも似たことをするかもしれないというのです。

これらの仮説を検証するため、研究チームはまず、様々な実験で用いられる場合と同じく、十分に訓練されたマウスを次のように用意しました。

喉が渇いたマウスを拘束し、音に反応して前足で右か左にハンドルを回すよう訓練したのです。

1つ目の音はハンドルを右に回すことに対応しており、2つ目の音は左に回すことに対応していました。

そしてマウスが音に対して正しい方向にハンドルを回した時にだけ、報酬として水が与えられます。

間違った方向にハンドルを回したり、まったく回さなかったりすると、報酬はもらえません。

音に応じてハンドルを右か左に回す実験。正解すると報酬が得られる
音に応じてハンドルを右か左に回す実験。正解すると報酬が得られる / Credit:Kishore V. Kuchibhotla(Johns Hopkins University)et al., Current Biology(2024)

研究チームは、このトレーニングを繰り返すことで、マウスたちがルールを理解し、正確にタスクを実行できるようになることを確認しました。

マウスたちはこのタスクを習得したのです。

しかし、それだけではなく、マウスたちは時に誤った反応を示すことがありました。

どの音が再生されても、ハンドルを同じ方向に繰り返し回転させることがあったのです。

では、「単純な失敗」にも見えるこのマウスの行動の背後には、どんな要素が隠れているのでしょうか。

ストレスでミスしただけでしょうか、それとも、一種の探索行為として意図的に間違っているのでしょうか。

研究チームは、この点を追加の実験で確かめました。