2022年6月19日は、英国史上最も不可解な殺人事件の発生から40周年に当たる日だった。「神の銀行家」として名を馳せたイタリア人男性、ロベルト・カルヴィがロンドンのブラックフライアーズ橋の下で「首を吊っている」状態で発見されたのは1982年6月19日である。当初、カルヴィは自殺したと考えられていたが、後にロンドン警視庁やイタリア警察によって他殺と判断された。
イタリア・ミラノに生まれたカルヴィはミラノ大学卒業後の1947年、バチカン銀行(宗教事業協会)の資金管理を行うイタリアのアンブロシアーノ銀行に入行。1971年に投資部門の責任者となり、その4年後の1975年には頭取に就任した。また、「ロッジP2」(イタリアに拠点を置くフリーメイソンの裏組織「プロパガンダ・ドゥーエ」の通称。後に破門となったが、違法な地下活動を繰り広げた)会員となったり、マフィアのマネーロンダリングなどに関与した弁護士のミケーレ・シンドーナと交流もあった。そしてカルヴィ自身、当時のバチカン銀行総裁であるポール・マルチンクス大司教の下でマフィアのマネーロンダリングや不正融資に手を染めていた。
アンブロシアーノ銀行はバチカン銀行の資金管理を続ける一方で、マフィアと関係しているという噂も絶えなかった。1981~82年、イタリア中央銀行がアンブロシアーノ銀行の大規模な査察を行い、10億ポンド(約1660億円)以上の使途不明金が発覚。1982年5月にアンブロシアーノ銀行は破綻し、カルヴィは偽造パスポートを使用してロンドンに逃亡した。
国際手配されたカルヴィは1982年6月17日未明、ロンドンのブラックフライアーズ橋の下で「首を吊っている」状態で発見された。当時はカルヴィが自ら命を絶ったと考えられてきた。しかし、遺体のぶら下がり方や周囲の状況などに不自然な点が多かった。また、死亡時のカルヴィは3種類の異なる通貨で約1万5千ドル(約203万円)の現金を所持しており、衣服のポケットにはレンガが入っていた。
カルヴィの死から9年後、遺族は私立探偵のジェフ・カッツを雇った。カッツは、カルヴィが死亡時の衣服や所持品について法医学的調査を要請。カルヴィのスーツのポケットと下着からレンガが発見されていたが、遺体の手を調査したところレンガに触っていないことが明らかとなった。この結果は、他の何者かがカルヴィの衣服に(おそらく重りとして)レンガを入れたことを意味する。カルヴィの首には怪我があったが、これらは首吊りのときにできる怪我と一致しなかった。さらにカルヴィの靴には、橋の足場にみられる錆やペンキが付着していなかった。
後に、ロンドン警視庁は遺族らの依頼で再捜査を実施し、1992年に自殺ではなく他殺と判断。 2003年には、イタリア警察も遺体を再鑑定した結果を踏まえて他殺の判断を下した。
このカルヴィ暗殺に関してはさまざまな噂が囁かれている。暗殺の理由は、マネーロンダリングや不正融資の口封じ、銀行破綻によって多額の資金を失ったマフィアの報復などの説がある。殺害に関与したと噂される人物や組織も多い。マルチンクス大司教、「ロッジP2」のリーチオ・ジェッリ代表、ユダヤ系大富豪のジェームズ・ゴールドスミスからマフィアやCIAの関係者まで、多くの名前が挙がっているが、現在に至るまでカルヴィ暗殺で有罪判決を受けた者はいない。
2005年、イタリア司法当局がカルヴィ暗殺などの容疑で5人をローマ地方裁判所に起訴した。2007年、検察官のルカ・テスカローリが5人に終身刑を求刑したが、ローマ地方裁判所は5人全員に無罪判決を下した。裁判官はカルヴィが殺害されたことを認めたものの、5人の被告については証拠不十分であるとした。
カルヴィ暗殺事件の真相が明らかとなれば、芋づる式に多くの人物や組織の悪行も明らかになることだろう。しかし、捜査や裁判に大きな進展はみられない。このまま未解決事件として語り継がれていくのかもしれない。
参考:「The Daily Star」、ほか
※当記事は2022年の記事を再編集して掲載しています。
文=標葉実則
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
提供元・TOCANA
【関連記事】
・初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
・航空機から撮影された「UFO動画」が公開される! “フェニックスの光”に似た奇妙な4つの発光体
・有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
・ネッシーは巨大ウナギではない! 統計的調査結果から数学者が正体を予測
・積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?