1945年12月5日、フロリダ州フォートローダーデール海軍航空基地。訓練飛行を終え帰還するはずの5機のTBFアベンジャー雷撃機からなる飛行隊「フライト19」は消息を絶った。彼らは、後に「バミューダトライアングル」と呼ばれるようになる魔の海域の上空で、一体何に遭遇したのだろうか。
バミューダトライアングル: フロリダ半島、バミューダ諸島、プエルトリコを結ぶ三角形の海域で、ここでは多くの船舶や航空機が謎の失踪を遂げている。Wikipedia – バミューダトライアングル
経験豊富な教官と訓練生たちの挑戦
フライト19を率いていたのは、チャールズ・キャロル・テイラー海軍中尉だ。彼は第二次世界大戦で太平洋戦線を経験し、数々の激戦をくぐり抜けてきた歴戦のパイロットであった。2500時間以上の飛行経験を持ち、アベンジャー雷撃機の操縦にも精通していた。
訓練生たちは、エドワード・ジョセフ・パワーズ大尉、ジョージ・ウィリアム・スティバーズ大尉、フォレスト・ジェームズ・ガーバー少尉、そして、ジョセフ・ティプトン・ボッシ少尉の4名である。彼らはまだ飛行経験は浅かったものの厳しい訓練を積んでおり、テイラー中尉の指導の下、更なるスキルアップを目指していた。
順調な滑り出し、そして異変の発生
この日、彼らに課せられたのは、「Navigation problem No. 1(航法問題No.1)」と呼ばれる、航法と模擬爆撃を組み合わせた訓練であった。これは他の飛行隊も日常的に行っている訓練であり、フライト19の面々も問題なくこなせるはずだった。
離陸後、フライト19はまず東へ向かい、「Hens and Chickens Shoals」(通称:チキンロック)と呼ばれる浅瀬で、模擬爆撃訓練を実施した。この時点では彼らの飛行は順調だった。しかし、運命の歯車は狂い始める。
コンパスが狂い……、深まる謎
チキンロックでの訓練を終えたテイラー中尉は、北東へ進路を変え、グランドバハマ島上空を通過するコースをとる予定であった。ところがここで予期せぬ事態が発生する。テイラー中尉の機体のコンパスが、正常に機能しなくなったのだ。
コンパスに異常を感じたテイラー中尉は、基地に無線で報告する。しかし、彼は既に自分の位置を見失いつつあった。基地との無線交信記録からは、彼が通過したはずのバハマ諸島をフロリダキーズと誤認し、その結果、基地とは逆方向へ機を進めていたことが明らかになっている。
交錯する無線、緊迫の交信記録
無線交信記録からは、テイラー中尉の誤った判断に訓練生たちが気づいていたことがうかがえる。彼らは、西へ進路を取ればフロリダ半島に到達できると進言している。しかし、当時の軍隊における上下関係の厳しさからか、テイラー中尉は彼らの進言を受け入れなかった。
悪化する天候と日没が迫る中、基地との無線交信は次第に途切れ途切れになっていく。基地側もフライト19の位置を特定しようとあらゆる手段を尽くしたが、その努力は実らなかった。
最後の交信、そして絶望の沈黙
18時20分頃、テイラー中尉の最後の無線交信が基地に届く。彼の声には疲労と焦燥に満ちていた。「全機、接近隊形をとれ…陸地を発見できなければ、不時着水するしかない…燃料が10ガロン以下になったら、全員同時に着水する」
これがフライト19からの最後の通信記録である。その後、何度呼びかけても応答はなかった。彼らは、深い闇と静寂の中へと姿を消したのである。
捜索活動と更なる悲劇
フライト19の遭難信号を受け、沿岸警備隊や海軍は、直ちに大規模な捜索救難活動を開始する。しかし、広大な海域を捜索するも彼らの痕跡を見つけることはできなかった。
皮肉なことに、捜索活動に従事していたPBMマリナー飛行艇もまた、フライト19と同様に消息を絶ってしまう。後に、タンカー「ゲインズミルズ」号が、フライト19の推定遭難時刻と位置付近で海面からの火柱を目撃したという報告がなされた。このことから、PBMマリナー飛行艇は空中爆発を起こし墜落したものと考えられている。
原因不明、残された謎と憶測
海軍による事故調査委員会は500ページに及ぶ報告書の中で、テイラー中尉の航法上の誤りが事故原因であると結論づけた。しかし、彼の母親からの抗議を受け、最終的な報告書では「原因不明」と修正されることとなった。
フライト19の事故原因については、その後も様々な説が提唱されている。コンパスや計器の誤作動、磁気異常、空間の歪み、そして、超常現象にいたるまで、様々な憶測が飛び交っている。
バミューダトライアングルの呪縛
今日に至るまで、フライト19の機体や搭乗員の遺体は発見されていない。バミューダトライアングルの深海に、謎を秘めたまま静かに眠り続けているのかもしれない。
フライト19の悲劇は、我々に自然の脅威と人間の無力さを突きつけると同時に、未知の世界への畏敬の念を抱かせる。バミューダトライアングルは、今日もなお人々の好奇心を掻き立て、想像力を刺激し続ける謎めいた海域であり続けるだろう。
参考:Wikipedia
文=青山蒼
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提供元・TOCANA
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