風力発電は再生可能エネルギーの一手段として広く知られているが、しばしば野鳥が風力発電施設のブレードに衝突し死亡するという事故、バードストライクが起きるため、野生生物保全との両立が課題となっている。中には絶滅危惧種なども含まれており、喫緊の課題である。

この問題は世界各国で起こっており、この十数年、生息地を考慮し設置場所を変えるなどしてこの問題に対処してきている。日本野鳥の会の調べによると、わかっている範囲だけでも国内のバードストライク件数は2023年1月までに604羽となっており、風力発電施設の多いアメリカではさらに多く、アメリカの鳥類保護団体American Bird Conservancyによる試算では年間約54万羽ものバードストライクが発生しているという。

このような状況を回避するための仕組みとして、AIを活用したバードストライク防止サービスを展開するチリのinnspatial社がCOMPUTEX Taipeiに出展していたので、取材を行った。

カメラとスピーカーというシンプルな構成で鳥の衝突を回避

innspatialの仕組みはいたってシンプルで、AIを搭載したカメラで衝突しそうな鳥を検知し、鳥の嫌がる音声を指向性スピーカーによって当てて、衝突を回避するというもの。

3Dレーダーを使ったより高度な検知システムも広く検討されているが、高価であったり、電波法の問題もあるため、導入もハードルが高い。一方で、これだけシンプルな構成であれば制度はある程度落ちるものの、安価で導入が可能だ。そしてこのサービスはSaaSで提供されているため、初期費用も抑えられる。

プレゼンテーションの模様。仕組みはシンプルな構成。

空港や港での活用にも期待

鳥の被害、保護を目的とするマーケットはかなり広い。風力発電施設は地上、会場あわせて世界で34,100機あり、また港もその対象、世界に3,700港存在し、空港も41,700港が対象となりえる。そのほか、農業やビルなどもマーケットの視野に入る。

風力発電施設ほか、ビルのバードストライク対策など幅広い分野で活用

台湾「Startup Terrace」国際スタートアップ企業に選出

2023年時点では5ユーザーに利用されていた同サービスだが、2024年には新たに10ユーザーが加わり、対象も3か国、2つの新たな産業に拡大しているという。

また台湾のスタートアップ施設「Startup Terrace」のソフトランディングプログラムの国際スタートアップ企業10社のうち1社に選ばれており、すでに台湾での商談も始まっているそうだ。今後の事業拡大が期待される。

(文・亀川将寛)