今回の狙撃シーンを見て、違和感を覚えた人も多いでしょう。耳をかすめる銃弾を受けたトランプが立ち上がると、複数のシークレットサービス(SS)に取り囲まれました。5-6人の背が高く屈強な男性たちがトランプの盾となりました。SSの任務の一つは、守るべきVIPを自分の体で守り、場合によっては銃弾を受ける盾となることです。しかし、狙撃犯にとって最も狙いやすい重要な位置にいたのは、小柄な女性でした。彼女の背が低いため、トランプの顔は完全に見えていました。もし共犯者がいてさらなる銃撃があった場合、彼女の頭を越えてトランプの顔に命中する可能性もありました。

この記事の最初の掲載写真を見てください。結果論ですが、彼女の背の低さが、トランプを神がかった英雄にした写真が撮られる切っ掛けになりました。

今回のSSの最高責任者はキンバリー・チートルという女性長官です。彼女は、狙撃犯がいたビルの内部に警官を配置しましたが、犯人が簡単に登れる屋上には警護官を配置していなかったことを認めました。その理由として「屋上の傾斜が急過ぎて警護官を配置できなかった」と説明しました。しかし、一部の情報では、もっと急な傾斜の建物や難 しい給水塔にも警護官が配置されていたということです。筆者の無数の電話でも地元警察と話せず、個々のポイントは裏を取ることができませんでした。

さらに同長官は、「しっかり対応する十分な時間がなかった」と言い訳をしています。しかし、大統領などの政治的なVIPの警護は常に時間がない。数秒から数分が命に関わることが常識とされる世界です。この女性長官には資質の問題があるかもしれません。

筆者は女性差別者ではありません。能力で役職の責任を果たせれば問題ないと思います。しかし、前述の背が低く盾になれない女性SSの現場配置や、狙撃に最適ともいえる屋上に警護官を配置しなかった判断には疑問が残ります。

バイデン政権は、以前オースチン国防長官を任命した際に「能力はまあまあだが、黒人であることが優先された」との噂を根城のワシントンで聞きました。事実かどうかは分かりませんが、筆者は数多い国防総省の友人関係者からの情報を総合的に判断して、事実だと思っています。

バイデン政権が女性や黒人を大切にする姿勢は理解できます。しかし、重要なのは性別や肌の色ではなく、能力と資質であるべきです。

銃撃事件を受けて政府はトランプの警護を強化しました。現在ミルウォーキーで開催中の共和党大会では、SSのAチーム、つまり屈強で体が大きな男性警護官だけが表面に出ています。あの小柄の女性も含めて女性は裏舞台に引っ込んでいます。

バイデン政権は今回の警護体制を問題視しており、第三者委員会が調査を行い、その結果を公開する予定です。もうすぐチートルSS長官は議会で当時の警護体制について追及されるため、その詳細が明確になるでしょう。

バイデン政権は銃器規制に積極的です。他方、トランプは強力なロビー団体であるNRA(全米ライフル協会)からの支援もあり、一貫して銃器規制に消極的です。今回の狙撃事件を受けて、米国の銃器事情をよく知らない日本人の多くは、トランプが銃器規制に積極的になるのではないかと考えるかもしれません。しかし、それは絶対にあり得ないことです。トランプは一貫して銃器規制に反対しており、今回の事件によってその立場を変えることはありません。

今回使われたのは軍用高性能ライフルです。日本人は「なぜこんな軍用銃が簡単に買えるのか?」と疑問に思うでしょう。実際に半世紀近く米国に住み、憲法の精神を米国人と議論したり、自然が多く狩りをする州を訪問取材すれば、少しは理解できるかもしれません。それに加え、筆者はミシガン州のミリシア(民兵組織)の取材もしたので、彼らの気持ちも分かります。

「お上」がほぼ絶対的な権力を持つことに慣れている日本人には理解できないでしょう。正しいことでは絶対にありませんが、前回、バイデンに選挙で負けた時、不正だから敗北など絶対に受け入れないと主張するトランプ。彼が扇動した議会襲撃事件。中央政府の絶対的な権力など認めない。なにかあり、話してもだめならば市民が銃を持って戦う。これが本当の民主主義だという考え。その実現にはこのような銃が必要であることも理解できます。

もちろん、戦争に使うわけではないため、フルオート(引き金を引く限り弾丸が出続ける機能)は禁止されており、その制限のもとで合法化されています。本当にごく一部の人々による狩猟用を除き、ライフルやハンドガンが禁じられている日本では、このような狙撃事件はまず起こらないため、想像しにくい世界でしょう。しかし、米国ではこの種の銃を含めて銃器の販売が完全に禁止、ましてや銃器保持が禁じられることはあり得ません。

トランプに関するニュースは日本ではあまり大きく報じられないようにみえますが、ポルノ女優絡みで有罪判決を受け、公式に重罪犯罪者となったトランプの量刑言い渡しが数ヶ月も延びました。もしトランプが刑務所に入ることになれば、大統領の資質に対する疑問が広がり、彼に対する印象が大きく変わるでしょう。

さらに、機密文書の違法保管についても説得力のある説明なしに裁判所の判断で、起訴が取り下げられました。上記の量刑言い渡し延期と共に、トランプの大勝利が2つ続きました。

これにより、民主主義や三権分立の原則が揺らいでいます。バイデン政権が司法に影響力を行使したという説が広く信じられており、それがトランプへの追い風となっています。

トランプが当選すれば、独裁色を強めるでしょう。専制・権威主義・非民主主義の露中などと違って3期目がないので、やりたい放題です。さらに今回のバイデン政権下での幾つかの訴追、そして今回の暗殺未遂。これらで、大統領である自分が独裁者的なことができるようにするでしょう。

さらに、3権分立のはずですが、911を受けて、国家の危機から国民を守るという意図で、一時期その傾向が強くなりましたが、司法・立法よりも行政を強くする動きがありました。大統領は任命権があるので、自分勝手にいうことを聞く人間を集めることもできます。トランプ2期目は間違いなくその方向性になるでしょう。

筆者は当初、ひどい話だと思っていましたが、善悪論でいうと、一概に悪いとは言えません。これからの相手は露中北イランなどの独裁国家、権威主義、非民主主義です。そのような国と勢力に対峙するにはトランプ独裁体制が有効かもしれません。