ウクライナ戦争問題と対峙する欧州では、バイデン氏ではなく、トランプ氏がホワイトハウスの住人となった場合、米国の対ウクライナ政策に大きな変化が生じることが予想されてきた。トランプ氏はこれまで「北大西洋条約機構(NATO)の軍事費支出で加盟国にGDP比2%を要求し、それを果たさない加盟国に対して米国は防衛する義務がない」と脅かしただけではなく、米国の対ウクライナ支援をカットし、欧州の加盟国に委ねる可能性も示唆してきたからだ。

ドイツの野党第一党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)のフリードリヒ・メルツ党首は15日、ntvとのインタビューで「わが国は第2次トランプ政権の発足に対する準備が全くない」と指摘、ショルツ首相の危機管理の欠如を批判している。

ちなみに、ショルツ首相は対ウクライナ軍事支援ではバイデン米政権と連携し、主要戦車「レオパルト2」のウクライナ供与問題でも米国のウクライナ支援に歩調を合わせてきた経緯がある。しかし、バイデン氏ではなく、トランプ氏に代わった場合、ショルツ首相はウクライナ支援では消極的なトランプ氏とどのように渡り合っていくかが大きな課題となる。

実際、ウクライナのゼレンスキー大統領は既にトランプ政権の誕生を予想して、対応の健闘に入っている。トランプ氏はロシアの占領地を認める一方、ロシア側に軍事行動の停止を要求する案を側近の間で検討させているという。ちなみに、ゼレンスキー氏は自身の「平和の公式」の中でウクライナの完全な主権回復、ロシアの占領地からの撤退を絶対に譲ることが出来ない条件としている。

米国で大統領が民主党から共和党に代わった場合、単に大統領だけではなく、全省・関係機関のリーダーだけではなく、ほぼ全スタッフが入れ替わる。例えば、国務長官はいうまでもなく、次官から補佐官、次官補佐官、それらを支えるスタッフは代わる。ドイツ外務省が米国務補佐官、次官補佐官と人脈を構築し、情報の交換をしてきたとしても、大統領が代われば、その瞬間、ニューカマーとの人脈を構築するために最初からスタートしなければならなくなる。退陣した次官級、外交官はシンクタンクの研究員に再就職するか、大学教授のポストを得るなど、新しいジョブを探すことになる。

繰り返すが、暗殺未遂事件後、トランプ氏の再選が一段と現実味を帯びてきた今日、共和党との関係強化、人脈構築に乗り出さなければならない。ドイツだけではない。世界はポスト・バイデン(トランプ氏のカムバック)に備えるべきだろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。