アイルランドの作家ジョナサン・スウィフトが1726年に著した『ガリバー旅行記』といえば、 誰もが小人に取り囲まれた主人公ガリバーのイメージが思い浮かぶ だろう。こんにちでは、 児童向けの冒険話として読まれる傾向の強い作品であるが、実際は政治的いわば風刺をふんだんに込めた作品であることでも知 られている。今では誰もが知る「ヤフー」(yahoo)も、その由来はガリバー旅行記の第四部「馬の国」 に登場するサルのような毛深い生物「ヤフー」( 最低醜悪な下等生物)に由来しているのは有名な話である。
当時のイギリス人およびイギリス社会を痛烈に批判する形で執筆されたガリバー旅行記であるが、実は「予言」をしていたのではないかと言われている。それは、ガリバー旅行記全四篇の中の第三篇「ラピュータ」の渡航記にある。
ジブリ作品『天空の城ラピュタ』 のモチーフになったことでも知られる、空飛ぶ島「ラピュータ」 は、 数学や天文学そして音楽に没頭する人々が住む島として描かれている。その作中の天文学者からガリバーは、「火星には2個の小さな月がある」と聞かされるのである。
火星の2つの月すなわち衛星は、天文学者のアサフ・ホールが屈折望遠鏡で発見し、ギリシア神話に登場する神の名前からとられ、「フォボス」と「 ダイモス」と名付けられている。しかし、ホールが火星の衛星を発見したのは1877年であり、 ガリバー旅行記が発表されてからおよそ150年後のことなのだ。このことから、ガリバー旅行記は火星に衛星があることを、150年前に予言していたのではないかと言われているのだ。
この「火星の衛星」は、本当に予言であったのだろうか。ガリバー旅行記の記述におけるそれぞれの衛星は、内側( フォボス)は「火星の直径の3倍離れたところを10時間で」 回り、外側(ダイモス)は「 火星の直径の5倍離れたところを21時間30分で」 回ると記されている。観測結果からするとこの数値はやや異なってはいるが、この2つの衛星の軌道はガリバー旅行記の中で述べられていた通り であったのだ。
ガリバー旅行記が発表された当時、地球の月のほかには木星の四大衛星しか知られていなかったにも関 わらず、なぜスウィフトはこのような記述をすることができたのだろうか。最も有力とされている説は、スウィフトがドイツの天文学者ケプラーの知識から得たものである というものだ。天体の運行法則「ケプラーの法則」を提唱したことで名が残るヨハネス・ケプラーは、1つの衛星を持つ地球と4つの衛星を持つ木星の中間にある火星は、等比数列により衛星が2つあるのではないかという説を唱えていた 。結果として、火星の衛星は2つあったため、スウィフトはこれを参考にして引用したに過ぎないのではないかと 言われている。
だが、社会風刺小説としての『ガリバー旅行記』に、そのような予言めいた事柄を記したのはなぜなのだろうか。ラピュータの人々は科学に没入するあまりまともな生活ができない様子で描かれており、それが科学者という存在に対する揶揄であることは容易に想像ができる。ケプラーの説は当時まだ予想にすぎないものであったが こうした科学者の見解や発見は「これほどに科学が進んだところで社会は良くならない」という批判材料として必然的に用いられ、それが偶然にも後年に的中する形になったということなのかもしれ ない。
【参考記事・文献】
ガリバー衛星
『ガリバー旅行記』の謎
火星の秘密・ガリバ-旅行記
【文 ナオキ・コムロ】
【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】
文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
提供元・TOCANA
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