エルメス、LVMH、ケリング、プラダのラグジュアリー主要4社の第1四半期決算は明暗クッキリ
ファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」の新生メンズコレクション(画像=『SEVENTIE TWO』より 引用)

 ラグジュアリーブランド関連の主要企業の第1四半期(2024年1月1日~3月31日)の売上高の速報が4月末に発表になった。注目は、エルメス・インターナショナル(Hermes International)、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、以下LVMH)、ケリング(Kering)、プ

 ラダ・グループ(PRADA GROUP)ら主要4社に大きな差が出ていることだ(*以下、1ユーロ=166円で換算)。

 まず、「エルメス(HERMES)」を擁するエルメス・インターナショナルだが、第1四半期の売上高は38億500万ユーロ(約6316億円)で為替変動などを反映しない前年比は17%増だった。すべての国・地域で2桁成長を記録し、とくにインバウンド消費が絶好調の日本では2月にオープンした「エルメス麻布台ヒルズ店」が売り上げに貢献したこともあり、前期比で25%増だった。

 ラグジュアリーブランドのコングロマリット企業であるLVMHの第1四半期の為替変動などを反映しない売上高は、前期比3%増の206億9400万ユーロ(約3兆4352億円)であり、2桁成長していた前年に比べるとちょっと物足りない結果ではあった。ちなみに、コロナ禍(2020年1月の第1波~2023年5月の5類移行までと定義)真っ只中の2020年を除けば2016年以来の低成長になる。この数値を根拠に「ラグジュアリー需要の減衰」を指摘するには時期尚早だろう。

 LVMHの部門別の前期比を細かく見てみると、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」を中核に据えるファッション&レザーグッズ部門は前期比2%減だった。最も前期比が高かった部門はセレクティブ・リテーリング部門で、化粧品セレクトショップの「セフォラ(Sephora)」が牽引役だった。一方、高級免税店の「DFS」が依然として新型コロナウィルスの感染拡大前の2019年の水準以下であり個人的には気になるところだ。最も低迷した部門はワイン&スピリッツ部門で、なんと前期比16%減だった。世界のラグジュアリー業界を牽引するLVMHの低増収の今後が注目される。

 さて、「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(Saint Laurent)」「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」などのラグジュアリーブランドを擁するケリングの第1四半期は衝撃的な数値だった。売上高は前期比マイナス11%減の45億400万ユーロ(約7536億円)だった。ケリングは3月20日に業績の下方修正を行なっていたがほぼその通りの結果だった。地域別では西ヨーロッパ(9%減)、北米(11%減)、日本を除くアジア太平洋地域(19%減)が顕著であった。ただし、円安によるインバウンド需要が急増している日本は16%増という状況だった。ブランド別では、売り上げのほぼ半分を占める「グッチ」が21%減、「サンローラン」が8%減、「ボッテガ・ヴェネタ」が2%減になっている。

 「グッチ」で言うと、中興の祖とも言うべきアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)に代わってサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)が2023年1月にクリエイティブ・ディレクターに就任し、デ・サルノが手掛けたコレクションは2024年2月後半から販売を始めている。第1四半期の売上高に占める比率は今のところ7%以下であり、クリエイティブ・ディレクター交代の成否についてはトピックが少なく今のところ不明。ただ、この2年ばかりの「グッチ」ブランドの退潮を食い止めるパワーには不足しているとの声も、ミラノ・ファッションウィークに列席した海外ジャーナリストの声には挙がっている。同社によれば、上半期の営業利益は前年の55%程度まで急減すると見られている。

 注目は、「プラダ(PRADA)」や「ミュウミュウ(Miu Miu)」などを展開するプラダ・グループの第1四半期決算が絶好調であること。売上高は11億8700万ユーロ(約1970億円)で前期比16%増。中核ブランドの「プラダ」は既存店ベースで前年比7%増の8億2600万ユーロ(1371億円)だったが、「ミュウミュウ」は前期比89%増の2億3300万ユーロ(約386億円)と急進した。地域別では、欧州(18%増)、米国(5%増)、中東(15%増)、日本を除くアジア太平洋地域(16%増)といずれも好調だが、突出した地域は日本。既存店ベースで前年比46%増と急増し、1憶4500万ユーロ(約240億円)だった。

 以上4社のラグジュアリーブランド企業を簡単にまとめると、エルメス・インターナショナル(絶好調)、LVMH(堅調)、ケリング(低迷)、プラダ(絶好調)ということになるだろう。ケリングの「低迷」は中核ブランド「グッチ」の不振に依るものと考えてよいが、第2のブランドである「サンローラン」もやはり停滞基調に入りつつある印象を見せ始めており予断は許さない。世界のラグジュアリーマーケットを見ると中国市場が厳しいが、ニューヨーク株式市場の好調が牽引役になり、コロナ禍が完全に去ってからというもの環境は決して悪くはないのである。「エルメス」や「プラダ」などの絶好調はむしろ当然の動きであり、LVMHの「堅調」やケリングの「低迷」をもって「ラグジュアリーブランド消費の減速」を早合点するならば的外れと言わざるを得ない。

 注目は、ケリングの今後の改革ということになる。デ・サルノ就任後初のコレクションが2023年9月にミラノで披露されたが、クリエイティブ・ディレクターの手腕というべき新たなアイコンの創出や斬新なクリエイティブの提案よりも、「Gucci Ancora(グッチよ、もう一度)」の大仰なキャンペーンを全世界で打ち出したイメージ戦略に注力した印象だった。ミケーレイメージの払拭はもちろん個人の趣味を超えた企業戦略であり、春夏と秋冬の2シーズンを経た今のタイミングはそろそろ真価(数字)を発揮せねばならぬ時期にある。お家事情、社内事情までパパラッチされるほどにデザイナーと経営トップ陣との蜜月関係が濃密なケリングの正念場として、ラグジュアリー企業経営の手腕が相当に高いレベルで試されているのだ。

文・北條貴文/提供元・SEVENTIE TWO

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