意識を集中させることで無から魔術的な物体や人格のある存在を作り出す秘術「タルパ」は、チベット密教の奥義として今も広く信じられている。日本語では“思念体”とも訳されるが、まるで漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の「スタンド」、『亜人』の「IBM/黒い幽霊」のような非科学的な存在が現実に存在するのだろうか?
タルパ(tulpa)という言葉はチベット仏教で“化身”を意味するトゥルパに由来する。歴史上のブッダも仏のトゥルパ(化身)だと考えられているが、チベット仏教では独自の解釈が加わり、如来、菩薩、過去の偉大な仏道修行者の化身としてこの世に姿を現したとされるラマをトゥルク(転生ラマ)として敬う伝統がある。チベット仏教最高指導者であるダライ・ラマ14世も観音菩薩のトゥルクである。
さて、そんなトゥルパは神智学の影響を受け、西洋で独自の概念を発達させた。それがタルパである。現在のタルパのイメージを作り上げたのは、チベット密教研究の“パイオニア”とされるアレクサンドラ・デビッド=ニールだ。彼女は1928年刊行の『Magic and Mystery in Tibe』(邦訳『チベット魔法の書』徳間書店)の中で、タルパを作りあげた経験を語った。
「タルパを見ることはほとんどありませんでしたが、私の疑い深さが自分でタルパを作る体験に導いてくれました。私の試みはある程度の成功を遂げたのです」(同書より)
ニールは意識を集中させることでタルパを1時間ほどは“維持する”ことができたというが、同時にその危険性も指摘している。
「タルパに生命力が備わり、本物の存在としての役割を果たせるようになると、作り手の支配から逃れようとします。チベットのオカルト研究者によれば、これはほとんど機械的に起こることで、ちょうど子どもが体を完成させて離れて暮らせるようになると、母親の胎内から出ていくのと同じです。時には、亡霊が反抗的な息子になることもあり、術者とタルパの間で起こった不気味な争いを耳にすることもありますが、前者は後者によってひどく傷つけられたり、殺されたりすることもあります」
彼女が作ったタルパは、丸々としたにこやかで陽気な僧侶の形をしていたという。しかし、その状態を維持するためには、何カ月もの献身的な努力が必要だったそうだ。時間が経つにつれ、ぽっちゃりした僧侶は断片的な思考形態ではなく、完全な人間のようになっていき、スリムになり、引き締まってしなやかになったという。太った顔に代わって、彫刻のような頬骨が現れ、そして邪悪な顔になったそうだ。遂には彼女のタルパは、「支配から逃れる日がついに来た」と言い放ったそうだ。
ニールはすぐに知り合いの僧侶に相談し、タルパを消し去ることにしたという。だがそれも長く困難で、最終的に完全に消し去るまでに半年かかったというから恐ろしい。彼女のタルパは明らかに「生きようとしていた」という。
ニールの行なっていた儀式の詳細は分からないが、チベット仏教で実際に行われているグルヨーガに似ているような印象を受ける。グルヨーガではラマ(上師)の姿を自らのヴィジョンの中で具現化するが、タルパと通じるところがある。
さて、タルパはニールの心の中にだけ存在したのか、それともこの世界に実在したのだろうか? それは今となってはわからないが、タルパは「スレンダーマン」や「口裂け女」などの都市伝説的なモンスターの存在を裏付けるものとなるかもしれない。
参考:「Mysterious Universe」、ほか
※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。
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提供元・TOCANA
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