山形県議会で可決された全国初の笑い条例、「笑いで健康づくり推進条例」が注目されています。

県議会の最大会派である自民党が提出した条例を見ると、全6条で構成される本条例では、県民に対しては1日1回笑うこと、事業者に対しては笑いに満ちた職場環境の整備に努めることが求められています。

こういった求めは、努力義務であるものの、「思想良心の自由に反している」、「人生には笑えない日がある」、「笑いたくない人もいる」などなど、山形県の域を超えて日本中で論争が沸き起こっています。

実のところ、この条例のベースには、山形県民を対象とした研究成果が存在します。

その研究とは、山形大学医学部が実施している研究プロジェクト、山形県コホート研究によるもので、笑う頻度が高いと死亡リスクが低いことを示したものです。

ただ、その論文を眺めて見ると、条例で求められている笑いとの間には、そもそもギャップがあることも浮かび上がります

本記事では、日本疫学会が発刊する学術雑誌『Journal of Epidemiology』に2020年に掲載された研究結果をもとに、エビデンス的に良いとされる笑いと、条例で求められている笑いとのギャップを説明します。

目次

  • 笑いの健康効果に関するエビデンス
  • 笑いにも種類がある

笑いの健康効果に関するエビデンス

山形県コホート研究(Yamagata Study)とは、山形大学医学部の研究グループが山形県で行っている大規模なプロジェクトです。

このプロジェクトでは、山形県民の健康状態や生活習慣を長期的に追跡し、どのような生活習慣や検査結果が病気の発生や寿命に関連しているかを調べることを目的としています。

また、健康に関する研究と聞くと、体力や食事を思い浮かべる人が多いですが、山形県コホート研究では、「心」や「つながり」といった側面に関する研究成果も多く発表されている点に特徴があります。

その一環として、研究チームは、笑いの頻度と全死亡率、心血管疾患の発症率との関係に着目した成果を発表しています。

研究の対象者は、2009年から2015年にかけて、山形市などの7都市で健康診断を受けた40歳以上の男女です。

分析では、追跡期間中に他の地域に引っ越した者などを除き、合計1万7152人を最長8年間追い続けることで、生存状況や心血管疾患の発症状況を調べました。

次に、この研究における笑いの定義について説明します。

この研究での定義は、ズバリ、「大声で笑う」ことです。つまり、静かに笑うことや微笑むことは含まれません。

笑いの頻度に関するアンケートでは、4段階(ほぼ毎日、1~5回/週、1~3回/月、1回/月未満)で回答が求められ、分析では次の3つのカテゴリーに分けられました。
・週1回以上笑う(よく笑う)
・月に1回以上笑うが、1週間に1度は笑わない(たまに笑う)
・月に1回未満しか笑わない(ほとんど笑わない)

分析の結果、年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、飲酒習慣などを考慮して比較したところ、よく笑うグループに比べて、ほとんど笑わないグループの全死亡率(一定期間中に死亡した人の割合を比較したもの)がほぼ2倍(正確には1.95倍)も高いことが分かりました。

笑う頻度と全死亡率との関係
笑う頻度と全死亡率との関係 / Credit: いらすとや、Sakurada et al. J Epidemiol. (2020) をもとに作図

また、心血管疾患に関しては、よく笑うグループと比べて、たまにしか笑わないグループでは発症リスクが1.62倍高くなっていました。

こういった研究結果に基づき、研究グループは、「年齢、性別、喫煙、飲酒状況、高血圧、糖尿病などの一般的な危険因子の影響を調整しても、笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の発生率に関係する」と結論付けました。

ただ、上の心血管疾患の発症リスクに関する結果は、よく笑うグループと、たまにしか笑わないグループには差が出ていましたが、ほとんど笑わない人たちとよく笑う人たちの間には有意差がなかったと報告されています。

そのため笑えば笑うほど効果が高まるわけではない可能性が示唆されています。

ただ、笑いが健康上のリスクに対してある程度予防効果を持つ可能性は、他の研究でも論じられることのあるテーマであり、考えられる理由としては、笑いが免疫系(例えば、笑うことで体内のナチュラルキラー細胞の活性を高める)、血管機能、ストレスマーカーに好影響を与えることが挙げられています。

では今回の山形県の条例は、科学的な報告にしっかりと則したものなのでしょうか?