見分けのつかない光子を虚数情報で判別する

実数部分は同じで虚数数部分だけが違う、もつれた光子を作る装置
実数部分は同じで虚数数部分だけが違う、もつれた光子を作る装置 / Credit:USTC

虚数「i」を観測するためには何をしたらいいか?

鍵となったのは、近年になって導入された、虚数を実数と同じく、資源として活用するという虚数の資源理論です。

この理論を使うことで、量子情報における虚数の役割を研究することが可能になります。

実際の実験にあたっては、量子的にもつれ状態にある光子ペアが選ばれました。

量子もつれの状態にある光子のペアは、片方の状態が決定すると、もう片方の状態が自動的に決定するという性質があります。

これまでの研究では、観測されて状態が確認されるのは「実数」部分のみでした。

光子は粒子と波という2つの性質を併せ持つために、正確な光子の状態を表記するのには実数と虚数を組み合わせた情報が必要です。

そこで今回、研究者たちは、レーザーとクリスタルを組み合わせた装置で、実数部分が同じながら、虚数部分にのみ違いがある、もつれ状態にある光子ペア(状態Aと状態B)を作り出しました。

これら光子ペアを区別するためには、絶対に虚数部分の情報が必要です。

そしてペアの一方の光子を第三者に送り、情報の読み込みを行いました。

結果として、第三者は虚数部分の情報に応じて、送られてきた光子の状態および、もつれ状態にある未発進の光子の状態も識別することに成功します。

この結果は、量子の虚数部分の読み取りが可能であるだけでなく、情報資源として活用可能であることを示します。

虚数が語る真の物理学

虚数を元にし量子の世界はどんなものだろうか?
虚数を元にし量子の世界はどんなものだろうか? / Credit:Canva

今回の研究により、量子世界において虚数部分の情報が、粒子の状態の判別に使えることが示されました。

どうやら量子の世界においては、虚数は隠れたパラメーターから、実測可能な情報資源への転身を迫られているようです。

また今回の研究成果は、物理学全体の数に対する考え方が表面的なものに過ぎず、自然界の真の理解には虚数部分の情報が必要不可欠であることを示します

数学が作り出すイメージの世界にのみに存在していた虚数が、自然界の理を語り始める日は近そうです。

※この記事は2021年に公開のものを再掲したものです。

全ての画像を見る

参考文献

Physicists Prove That the Imaginary Part of Quantum Mechanics Really Exists!
https://scitechdaily.com/physicists-prove-that-the-imaginary-part-of-quantum-mechanics-really-exists/

元論文

Operational Resource Theory of Imaginarity
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.126.090401

Resource theory of imaginarity: Quantification and state conversion
https://journals.aps.org/pra/abstract/10.1103/PhysRevA.103.032401#fulltext

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。