筋肉痛や肉離れの対処として、よくアイシングが用いられます。

しかし、誰もが納得のこの方法、実は間違いだったかもしれません。

神戸大学、千葉工業大学の最新研究により、筋損傷に対するアイシングは、筋組織の再生を遅らせることが判明したのです。

研究は、5月7日付けで『Journal of Applied Physiology』に掲載されています。

目次

  • アイシングは筋肉の再生を「遅延」していた
  • 筋修復の始まりである「マクロファージ」が集まってこない

アイシングは筋肉の再生を「遅延」していた

筋肉の損傷や断裂は、比較的軽いものから重度のものまで様々。

しかし、その程度にかかわらず、今ではアイシングが応急処置の常識となっています。

アイシングは、損傷部の炎症反応を抑える目的がありますが、実際のところ、その科学的な効果はあまり分かっていません。

また近年の研究で、損傷後につづく炎症は、正常な回復プロセスであって、筋組織の再生に重要であることが明らかになりつつあります。

そこで研究チームは、マウスを用いた筋損傷後のアイシング効果を調査しました。

負荷レベルが高い「遠心性収縮」とは
負荷レベルが高い「遠心性収縮」とは / Credit: jp.depositphotos

まず、モデルマウスに対し、電気刺激を使った「遠心性収縮」による重度の肉離れを起こさせ、損傷部の筋サンプルを採取します。

筋肉の収縮には、筋組織が縮む「求心性」と、引き延ばされる「遠心性」があります。

例えば、ダンベルを持って肘を曲げていく運動が求心性収縮で、反対に、肘を曲げた状態からダンベルを降ろすようにゆっくり伸ばす運動が遠心性収縮です。

後者の方が力の発揮が大きく、筋トレの効果も高いですが、代わりに負荷が高く、筋損傷にもつながりやすいです。

筋サンプル(上)、筋線維横断面積ごとの分布(下)
筋サンプル(上)、筋線維横断面積ごとの分布(下) / Credit: 荒川高光ら、Journal of Applied Physiology(2021)

話を戻して、筋サンプルの採取後、ポリエチレンの袋に入れた氷で1回30分、2時間ごとに3回のアイシングを行い、これを筋損傷2日後まで続けました。

コントロール群として、アイシングをしない条件でも行っています。

それから2週間後の筋サンプルを観察した結果、アイシングをした群はコントロール群に比べ、細い筋繊維の割合が多くなっていました(上図)。

これはつまり、アイシングによって骨格筋の再生が遅延していることを示しています。

では、筋組織の再生プロセスで何が起こっているのでしょうか。