人類最大の武器は「事前の予測」ができること

恐竜を絶滅させたのと同等の巨大隕石が飛来してきたとき、人類には何ができるのか?

まずもって最重要課題となるのは、隕石の飛来を「事前に予測」することです。

正直にいうと、これができなければ、人類が生き延びる確率はかぎりなくゼロに近づくでしょう。

地球に向かってくる隕石を前もって発見できる技術は、人類が生み出した最大の武器といっても過言ではありません。

恐竜たちはこれができなかったせいで、隕石衝突の被害をもろに受けることとなりました。

(もし事前に隕石の飛来を予知して、落下地点から遠く離れた場所に避難していれば、少なくともいくつかの種は生き延びられたかもしれません)

人類の最大の武器は「事前の予測」ができること
人類の最大の武器は「事前の予測」ができること / Credit: canva / ナゾロジー編集部

しかし人類は長年にわたって築き上げてきた科学技術により、地球に接近する隕石を前もって発見することができます。

実際に人類は宇宙に打ち上げられている探査機を使って、地球近傍の小惑星や彗星を追跡観測し、そのうち地球に衝突する可能性があるものを随時チェックしているのです。

そして隕石の正確な軌道計算ができれば、数十年単位から最大で100年先までの接近・衝突リスクを予測しておくことができます。

地球近傍の小惑星を追跡観察するNASAの探査機「NEO Surveyor」
地球近傍の小惑星を追跡観察するNASAの探査機「NEO Surveyor」 / Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

具体的な例を挙げますと、1997年に発見された地球近傍小惑星「1997 XF11」は2028年に地球に最接近することがわかっています。

つまり、人類には恐竜たちと違って、「巨大隕石が地球に衝突する!」とわかってから最大で数十年以上の準備期間があるわけです。

では、この間に私たちはどんな準備を整えておくべきなのでしょうか?

隕石衝突を生き延びるための「3つの作戦」とは?

巨大隕石の衝突が確実なものとなったとき、人類は主に3つの手段を選ぶことができます。

単刀直入に言ってしまえば、「攻撃」「移住」「地下避難」です。

1つ目の攻撃はその名の通り、隕石が地球に衝突する前にこちらからアプローチを仕掛ける防衛策となります。

これは具体的に「DART計画(Double Asteroid Redirection Test=二重小惑星進路変更テスト)」と呼ばれるものです。

NASAが考案したDART計画では、隕石めがけて「キネティック・インパクター」という衝突体を高速でぶつけ、隕石の軌道を変えることを目的とします。

DART計画のイメージ図(小惑星に衝突体を高速でぶつける)
DART計画のイメージ図(小惑星に衝突体を高速でぶつける) / Credit: ja.wikipedia

これが成功すれば、地球に隕石が当たることを防げるので最良の結果を生むことになるでしょう。

しかし現時点の技術力では、ほんの小さな小惑星の軌道を変えられるに過ぎず、直径10キロ級の巨大隕石には全く効果がないと考えられています。

もし衝突体をぶつけたとしても、それはボクサーがパンチでエベレストを崩そうとするようなものです。

おそらく、DART計画も今以上にパワーアップさせない限り、巨大隕石には太刀打ちできません。

そこで2つ目の手段として「移住」が選択肢に挙げられます。

地球から脱出する作戦

これは「地球に隕石が衝突してしまうのは避けられないから、地球から脱出してしまおう」という作戦です。

人類は有人飛行をすでに達成しているので、あとは移住先が問題となります。

第一候補としては地球から最も近く、それでいて着陸経験もある「月面」が選ばれるでしょう。

現在進行中の「アルテミス計画」では有人での月面着陸を行い、月にベースキャンプを建設する予定もあります。

もし巨大隕石が衝突するとわかっているなら、人類も急ピッチで月面に多くの人を収容できる設備の建設を進めるでしょう。

また第二候補としては「火星」が挙げられます。

これはイーロン・マスク氏がCEOを務めるSpaceXが提唱するビジョンに基づいており、彼らは最終的に100万人が居住できる都市の建設を考えています。

火星に居住基地を建設したイメージ図
火星に居住基地を建設したイメージ図 / Credit: canva

しかし移住についても問題点は山積みです。

まず、人や物資を宇宙に飛ばすには莫大な労力とコストがかかります。

たとえ月面や火星に居住基地が建設できたとしても、そこに移住できる人は全人類の数からするとほんの一握りに過ぎないでしょう。

SF作品でもよく描かれるように、移住の権利はおそらく国の重要人物や富裕層が優先され、社会的地位の不平等が発生するはずです。

では、地球に残らなければならない多くの人々はどうすればよいのでしょうか?

そこで最も現実味のある手段が「地下避難」です。

地下シェルターに避難する作戦

ここでは巨大隕石の衝突に耐えられる地下シェルターを大量に建設し、そこに人々を避難させることを目的とします。

地下シェルターは隕石の落下地点から遠く離れた場所が選ばれるはずです。

さらに衝突後は地上の灼熱地獄と、それに続く寒冷化が数十年続くため、人々が長く居住できる環境づくりも必要となります。

食料自給や浄水設備、持続的な発電方法や医療施設などを充実させなければなりません。

また一部では地中ではなく、海底にシェルターを建設するアイデアも検討されています。

これは海中の方が地中よりも隕石衝突の影響を受けにくいと考えられているからです。

加えて、海底シェルターに推進システムを搭載すれば、万が一の場合に備えて、海中をそのまま移動して避難できるでしょう。

海底シェルターのイメージ図
海底シェルターのイメージ図 / Credit: NSF – Topic: Asteroid Impact Shelters Using Deep Sea Stations

シェルターの建設も容易なことではありませんが、こうした技術革新は人類が最も得意とするところです。

多くの人々を確実に救う方法としては今のところ、このシェルターへの避難が最有力と考えられています。

人類の技術力は恐竜時代から遥かに進歩しているものの、巨大隕石の衝突を生き延びる闘いはかなり厳しいものになることは確かです。

しかし隕石の飛来を何十年も先から予測して、ここまでの準備を完璧に整え、人類が一丸となって協力すれば、この最大の危機も乗り越えられるかもしれません。

ちなみにこれと正反対のシナリオとして、人類が絶滅してしまった後の世界を知りたい方はこちらをご参照ください。

人類がいなくなったら地球には何が起こる?専門家がシミュレートした結果…

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参考文献

Could Humans Survive The Asteroid Impact That Wiped Out The Dinosaurs?
https://www.scienceabc.com/nature/could-humans-survive-the-asteroid-impact-that-wiped-out-the-dinosaurs.html

Topic: Asteroid Impact Shelters Using Deep Sea Stations
https://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=43517.0

Musk plans 1,000-ship fleets to colonize Mars
https://newatlas.com/space/musk-mars-colony-plan-update/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部