そもそも中国の統計資料や目標値の信ぴょう性が昔から疑念視されている中で5%は一つの心理的目標になるでしょう。それとこの数字を信じるかどうかは別としてそれでも5%台を維持するのはあれだけの図体の国家としては並大抵ではないこともまた事実であります。

次に外務大臣の件ですが、王毅氏は昨年夏に秦剛氏が外相を解任されて以降、兼務という形で業務を行ってきましたが、さすがもう体力の限界と時間的制約で「あぶはち取らず」の状態になっていることから今回の全人代で外相が指名されるとみられています。候補の最右翼は党中央対外連絡部の劉建超部長となる可能性が高いとされます。劉氏はすでにアメリカでブリンケン国務長官らとも会合をこなし始めており、「顔見世」をしているとされます。オックスフォード出の劉氏の手腕はまだ未知でありますが、少なくとも外相が指名されれば中国外交が展開しやすくなり、かつ、トランプ政権になった場合の激しいバトルにおいて実務の最前線に立つという意味で極めて重大なポジションとなるでしょう。

3つ目の李強氏が全人代最終日に記者会見をせず、たぶんそれは数年は続くだろうという発表です。これを事前に打ち出すのもおかしな話という気もしますが、個人的には習近平氏が李強氏のプレゼン能力を信用していないのではないか、という気がしています。中国のトップは半ば神聖化されているので誰かから質問をされるというシーンは極力避け、その代わり、首相がそれを代弁するという慣習が少なくとも1988年頃から続いていたとされます。今回、その長年の慣習を打ち切ったのはやや腑に落ちないのです。

中国がディスクロージャ―をより後退させるという意味だとすればより一層、中国がブラックボックス化するわけで西側諸国の中国警戒網はさらに厳しいものになるでしょう。仮に李強氏への不信感が習氏に多少でもあるならば李強氏は単なるお飾りということになります。この辺りが習近平帝国権力構造の一部を判断するところになりそうです。

最後に国家秘密保護法の改正ですが、これは2月下旬の全人代常務委員会で改正法を既に可決しております。改正反スパイ法とコンビで習氏が国家安全を万全の体制で固める方針でしょう。改正国家秘密保護法は習氏の「総体国家安全観」なるものが明記され、秘密保護を行政部門が単独決定できるほか、インターネット上の情報規定が明記され、ネットワーク運営者に対する情報管理強化と行政への協力の義務化、更には海外への情報流出防止策や公教育を通じて国家秘密保護教育をまい進させるなどわれわれ日本人が読めば唖然とする規制が敷かれることになります。

中国は全人代を通じて独自路線化をより鮮明にしていき、政治のデカップリング化を推し進めると同時に経済においてはあらゆる手段を使い、世界への影響力を維持する、そのような体制強化を目指すことを誓う大会になるとみています。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月5日の記事より転載させていただきました。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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