今年5月、遠隔でバイタルサインをモニタリングする“顔スキャン”技術を展開するShen.AIが、ラテンアメリカのヘルステック企業VivaWellとの提携を発表した。

この提携は、メキシコとアルゼンチンにおける予防的ヘルスケアとウェルネスにアプローチするもの。先進的な健康モニタリングを企業と個人に広く提供することを目的としている。

パンデミックによるラテンアメリカの医療への深刻な影響

ラテンアメリカ諸国は、新型コロナウイルス感染拡大により大きな打撃を受けた。2022年5月時点で、170万人が亡くなっており、これは世界の死者数の27%以上を占める。特に医療体制の脆弱な山岳地域や貧困層において、被害が集中した。

感染症対策と並行して、がんをはじめとする非感染性疾患への対応が滞るなど、医療システム全体がひっぱくした状況に陥った。

医療アクセスの問題が浮き彫りになる中、デジタルヘルスケアへの期待が高まっている。

ラテンアメリカのテレヘルス(遠隔医療)市場は2023年に50億5,000万ドルと評価され、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)24.1%で成長すると予測されている(参考)。パンデミックにより、テレヘルスへの需要が急増。企業や学校がリモートワークを導入する中、ヘルスケア業界でもリモート診療の受け入れが進んでいる。

Shen.AIとVivaWellの協業で健康モニタリングがより身近に

このような背景の中、VivaWellは予防ケアとパーソナライズされたウェルネスソリューションを組み合わせた革新的なアプローチで、ヘルスケア業界に新風を吹き込んでいる。

ラテンアメリカの多くの地域では、山岳地帯や貧困層が存在し、医療アクセスに地理的・経済的な障壁がある。これまでもVivaWellはデジタル技術を活用することで、これまで医療サービスが届きにくかった人々にもリーチし、予防ケアの充実に貢献してきた。

そして今回、Shen.AIの技術をVivaWellのプラットフォームに統合することで、ユーザーはスマートフォンから直接、正確なリモート健康評価にアクセスできるようになる。この協業は、VivaWellのサービス拡充と、ユーザー間での能動的な健康管理文化の醸成を目指している。

いっぽうのShen.AIは、スマートフォンのカメラを使って遠隔でバイタルサインをモニタリングするためのSDK(ソフトウェア開発キット)を提供するB2B企業だ。このSDKは、リアルタイムのコンピュータービジョンを使用して、ビデオストリームから人間の顔を分離し、リモート光電容積脈波法(rPPG)を用いて血液の脈動の高品質で密度の高い信号を抽出する。

この信号に基づいて、SDKは観察されたすべての心拍のタイミングと形状を正確に判断し、心拍数、心拍変動、呼吸数、心臓ストレスなどの正確な心臓関連の指標をユーザーに提供する。すべてはエンドデバイスまたはブラウザ上でローカルに行われ、高精度の健康診断がすぐに利用できる。

この提携により、今後メキシコとアルゼンチンのデジタルヘルスケア変革に道を開くことが期待されている。

(文・嘉島亜麻実)