日本の多くの企業では、「根回し」の重要性が染みついているケースが多い。大企業の営業職などでは、「根回しが仕事の8割」などと社員に教育していることもある。だが、作業服や作業関連用品の最大手ワークマンは、“根回し禁止”を謳い、仕事の無駄を徹底的に排除する。とある大手企業の人事マネージャーが、ワークマンの取り組みについて「最高すぎる」と称賛すると、共感する向きが続出している。発言の意図とともに、日本企業の根回し文化について話を聞いた。

 低価格かつ高機能性を両立させる作業服で圧倒的な人気を誇るワークマン。総合スーパー「ベイシア」、ホームセンター「カインズ」などを擁するベイシアグループに属し、現場作業や工場作業向けの作業服や、作業関連用品の専門店として、日本最大手である。会社組織としても徹底的に無駄を省き、高い収益性を実現させている。

 たとえば、作業服市場の6割は法人向けであるにもかかわらず、法人相手は在庫管理やアフターサービスなど負担も大きいことから、法人相手の営業はせず、個人客に特化した商品開発に注力するなど、「選択と集中」を明確にしている。

 さらに2018年にカジュアル色を強めた「WORKMAN Plus」、2020年には女性向けブランド「#ワークマン女子」など、従来の“現場作業の男性向け”だけではない業態も展開し始めている。だが、いずれも「低価格・高機能」は維持し、高いコストパフォーマンスを実現している。

根回しを廃するワークマン

 そんなワークマンの高い生産性の秘密に迫る番組が、ABEMA Primeで配信された。そのなかで、“ワークマンがしないこと”として「根回し、朝礼、残業、ランチ会・飲み会、上司の送迎」が挙げられていた。

 これを受けて、X上で「根回しいらないワークマン控えめに言って最高すぎるだろ…」と一言つぶやかれたところ、瞬く間に拡散されて大きな注目を浴びている。発言の主は大手企業で10年以上にわたって人事を担当してきた「ける」さん。けるさんは新卒時より一貫して人事領域に従事し、現在は人事マネージャーとして構築・年間通じて多くの新卒・中途採用面談を行う傍ら、人事制度構築、リーダー育成や働き方改革プロジェクトなどの業務を担当。そのなかで得た知見をもとに、キャリア形成、就活/転職に関する情報を発信している。

そんなけるさんに、発言の意図を聞いた。

「日本の大企業では、ほぼ100%、業務上何かしらの根回しはあると思います。私自身、根回しが絶対的に悪く、不要なものであるとは思いませんが、根回しをしなくても仕事がスムーズに進むのであれば最高すぎるなという意図で発言しました。」

 では、根回しをやめると生産性は上がると考えられるだろうか。

「いきなり全ての根回しを撤廃して生産性が上がるかといえば難しいかもしれません。例えば、参加者が多い会議などは、事前にある程度調整を入れておかないと収集がつかなくなるケースもあります。ただ小規模な会議まで根回し必須となっているのは明らかに過剰です。基本的に社内で過剰に行われている根回しはやめるべきで、社内向け資料に関しても簡素化にすべきです。資料が多すぎるがゆえに事前の説明が必要になっている側面もあるはずです。できる限り、根回ししなくても仕事が進むやり方に変えていくべきだと思います。

 ほかにも、けるさんがやめるべき、もしくはやめたほうが生産性が上がると考えられることはあるだろうか。

「大企業で働く中で生産性を下げている要因と考えているのは、部門間の壁です。組織が大きくなればなるほど業務が細分化されセクショナリズムが強くなり、結果として部門ごとの横の連携が希薄になりがちです。それによって過剰な調整作業や無駄な手続き、根回しが発生していると思います。これを解消できれば生産性はあがると考えています。

 生産性を上げるために取り組むべき課題は、企業や職種などによってさまざまだろう。だが、共通するのは、「なんとなく、慣習的に、惰性で」行っていることや、「手段が目的化」していることなど、本当に必要なことにかけるべき時間や手間を削ってしまい、しかもその無駄に気づいていないという点ではないだろうか。

 “ワークマンがしないこと”は、そんな多くの企業に巣食う悪しき習慣を打破することの重要性を教えてくれているのではないだろうか。

(文=Business Journal編集部、協力=ける)

提供元・Business Journal

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