機械的刺激がカルシウムイオン濃度の変化につながる
鍵となったのはカルシウムイオンでした。
カルシウムイオンは外部からの刺激を細胞内部へと取り次ぐ、メッセンジャーとしてはたらくことが知られており、ホヤの変態にも大きくかかわっているのではないかと疑われていました。
しかしホヤの幼生は成体とは異なり、尾を振って泳ぐ能力があるために、付着の瞬間を含むカルシウムイオンの流れを観察することは困難でした。
そこで研究者たちはホヤの幼生を、細胞を接着させる効果を持った分子(ポリリジン)を用いてホヤの幼生をシャーレの底に固定。
そして付着器をガラス棒を使って刺激してみました。
すると、付着器においてカルシウムイオンの濃度が二段階にわけて上昇する様子が観察されました。
一段階目のカルシウムイオンの増加は、機械刺激の直後に、付着器と内部の腸にあたる組織で短い間みられました。
また、二段階目のイオン増加は一段階目と同じ場所(付着器と腸)でみられましたが、こちらは数分間の間、持続的に観察されました。
この結果は、ホヤの付着器に対する物理的な刺激か、細胞内部から核へとつながる複雑な反応の、最初の1手であることを示します。
ホヤの変態は脱脊索動物化
今回の研究により、ホヤは物理的な刺激のみで成体に変態することが示されました。
また機械的な刺激がカルシウムイオン濃度の増加を介して、細胞内部へと伝わることも示されました。
ただ、変態は全身の改変をともなう劇的な現象であり、特にホヤの場合は脊索や脳を消滅させるといった極めて重大な変化を引き起こします。
そのためカルシウムイオン以外にも、複数の機構が存在する可能性が高いと考えられます。
研究者たちは研究成果が将来的に、食用として養殖されているホヤや、ホタテなどに付着して害を与えているホヤなどの管理に応用できると考えているようです。
またホヤの変態のメカニズムが解明されれば、私たち脊索動物の神経系の起源なども解明されるかもしれませんね。
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参考文献
変態スイッチ発見 ホヤの「鼻先」を押すと大人になる仕組み-環境からのシグナルを体内に伝え変態を促すカルシウムイオン-
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2021/2/19/210219-2.pdf
元論文
Two-Round Ca2+ transient in papillae by mechanical stimulation induces metamorphosis in the ascidian Ciona intestinalis type A
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2020.3207
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?