今月9日から2日間の日程で人工知能(AI)の倫理問題に関する世界の宗教指導者たちの国際会議が広島で開催される。同会議は世界最大キリスト教会のローマ・カトリック教会が呼びかけたもので、AIの倫理問題を提示した通称「ローマコール」について、世界から宗教者代表、政治家、専門家が結集する。そこでAIの倫理問題の”ローマコール”だけではなく、「信教の自由」を訴えた”東京コール”を世界に配信する機会となることが願われるのだ。

「信教の自由に関する最新の年次報告書」を公表するブリンケン米国務長官(左)(2024年6月26日、米国務省公式サイトから)

安倍晋三元首相が暗殺されて、8日で2年となる。事件をきっかけに山上徹也被告が恨みを持っていたとされる世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への非難・攻撃が強まり、岸田文雄政権は、同教団の解散命令請求に突き進んだ。同教団解散請求は信者の高額献金問題に根拠を置いたもので、同教団を反社会的団体と糾弾している内容だ。

宗教法人法上の解散命令の要件となっている「法令違反」は本来、刑罰法令の違反に限られ、民法上の不法行為は含まれないにもかかわらず、岸田首相は世論の圧力に屈して、その法解釈を書き直した。法的な整合性を無視し、まず解散ありき、といった論理が先行していった。それを支えたのは朝日新聞などの左派メディアの教団バッシングだ。旧統一教会解散は岸田首相の政治的利権と左派メディアの連携で行われてきた結果だ。

40年あまり、ローマ・カトリック教会をフォローしてきた当方は、「それではカトリック教会はなぜ解散されないのか」と不思議に思う。旧統一教会への批判は主に高額献金問題だが、カトリック教会の場合、未成年者への性的虐待問題だ。前者は民事関連だが、後者は刑法問題だ。そしてその件数は数万件に及ぶ。にも拘わらず、前者は高額献金という問題で解散命令請求を受け、後者は聖職者の性犯罪を隠蔽してきたにもかかわらず解散命令請求を受けていない。

カトリック教会は解体すべきだという声はほとんど聞かれない背景には、聖職者の性犯罪は絶対に許されないが、「信教の自由」を無視することはできない、という前提があるからだ。性犯罪とは無縁で献身的に歩む大多数のカトリック教会聖職者と敬虔な信者たちの「信教の自由」を尊重しなければならないからだ。カトリック教会が直面する民事訴訟件数は旧統一教会の数十倍だ。そして刑事訴訟の件数にいたってはカトリック教会は圧倒的に多い。にもかかわらず、ローマ・カトリック教会の解体要求は聞かれない。それほど「信教の自由」は普遍的価値観に立脚しているからだ。