そもそも睡眠時間はどれくらい必要なのか?

厚生労働省が公表している睡眠に関する推奨事項を示した資料に『健康づくりのための睡眠ガイド2023』があります。

このガイドのこども版を見ると、夜更かしなどの生活習慣に関連する睡眠不足を防止する観点から、小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間の睡眠時間が推奨されています。

子どもにおける年齢別の推奨睡眠時間
子どもにおける年齢別の推奨睡眠時間 / Credit: 健康づくりのための睡眠ガイド 2023(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001254003.pdf)

同じ資料では、成人の睡眠時間の目安が6時間以上となっていることから、子どもの場合、たくさんの睡眠時間が必要なのがよく分かります。

実際、睡眠時間が足りていない子どもは肥満のリスクが高くなったり、学校の成績が悪くなったりします。

また、望ましい睡眠とは、単に睡眠時間が足りているのかというだけでなく、寝つきや睡眠の質が良いことも大切です。

厚生労働省のガイドにも、寝ながらデジタル機器を使用すると、寝つきや睡眠の質の悪化につながると記載されています。

これは単に一例に過ぎませんが、不適切な生活習慣が不眠傾向を強め、心身の発達に悪影響を及ぼすことになります。

今回の研究では、調査した生徒の平均睡眠時間は7時間46分であり、人気者とされた生徒の睡眠時間はこれより30分短い7時間程度でした。

そのため人気のある子は、この年代で求められる推奨睡眠時間からかなり短くなってしまっていることが明確となりました。

ただ研究者らは、アメリカで行われた別の研究では、孤立している男子でも不眠傾向が示されていることに触れ、人気と睡眠との関係は文化的な影響を受ける可能性も示唆しています。

この場合、学校で孤立していてもネット上での交友関係が広がっている場合や、孤独感の不安が不眠に繋がる可能性など、複雑な要因が考えられます。そのため原因を明らかにするためにはより深い調査が必要になってくるでしょう。

しかしいずれにせよ、友人関係が生活の中心となる10代半ばの青少年にとって、人気者であることは睡眠に悪影響を及ぼすおそれが高く、特に女子生徒ではその影響が強くなるようです。

当然友達が多ければ、交友関係に消費される時間が増えるため、そのしわ寄せは他の時間に当てられることになるはずです。今回の研究は睡眠時間のみにスポットを当てていますが、睡眠時間以外にも勉強などの時間に影響している可能性も十分あるでしょう。

一見すると、うらやましく見える人気者ですが、そこにはトレードオフで犠牲にしているものがあるようです。楽しそうに見えるその心の奥底には眠れない悩みが尽きないのかもしれません。

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参考文献

Surprising link found between teenage popularity and insomnia
https://www.psypost.org/surprising-link-found-between-teenage-popularity-and-insomnia/

元論文

Sleepy and popular? The association between popularity, sleep duration, and insomnia in adolescents
https://doi.org/10.3389/frsle.2024.1346806

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。