高齢化が要因ではない
では、統計を見てみましょう。
こちらが過去約50年の日本人の死亡数の推移。
これを見ると、確かに日本人の死亡総数は右肩上がりに増えていますね。
これは、日本の高齢人口が爆発的に増加、それに伴って死亡者数が増えたものです。
ということで、武見大臣の「高齢化の影響」という発言が正しいように思われるかもしれません。
ただ、一番右の2022年、2023年の増加幅がちょっと他の増え幅より大きくも見えないでしょうか?
ここを拡大するとこうなります。
通常であれば高齢化による自然増(水色の帯の範囲)は毎年およそ「2万人」程度。
一方、2022年は前年比で約13万人も死亡が増加しています。23年は更にそれ以上。
これは明らかに異常値です。
あの2011年の東日本大震災の時でさえ死亡増加は約6万人増だったので、その倍以上の死亡増加。
まさに「日本人の謎の大量死」と言っていい状況です。
このグラフを見るだけでも、武見大臣が言われた「日本人の謎の大量死は高齢化の影響」という発言が大いに的外れで、誤情報と言われても仕方ないことが分かると思います。
というより、そもそも「超過死亡」とは、高齢化などの自然増の影響を計算したうえで、それ以上に増えている分を言うものです。ですので、超過死亡が発生している時に、その要因を高齢化で説明するのはそもそも根本的に全くの間違いなんですけどね。
団塊の世代のせいでもない日本人の死亡増加について、よく聞かれる言説が、
「爆発的な出生があった団塊の世代が後期高齢者になったのだから当然」
というようなものです。
では、統計を見てみましょう。
こちらが日本人の出生数の推移です。
これを見ると、たしかに終戦直後の昭和22〜24年の3年間だけ突出して出生数が増加していることが分かります。
これは戦争に行かれていた男性陣が終戦で故郷に帰り、そこで子作りが一気に進んだから、と言われています(なお、昭和20年前後の数年が空白になっているのは、戦争による混乱で統計が取れなかったからです)。
それまで年間220万人くらいだった年間出生数が、突然50万くらい増えて270万に。それが3年間ですので、合計150万人くらい出生数が、この3年間だけで増えています。
これが第1次ベビーブーム、このときに生まれた方々は「団塊の世代」と言われます。
「団塊の世代」の方々は今ちょうど77〜80歳くらいで平均寿命に近づいています。出生数が150万人も一気に増えた世代が平均寿命に近づいたのですから、(みんなが平均寿命で亡くなる訳では無いにしても)突然10万人くらい死亡数が増えてもおかしくないだろう。
と考えても不思議はありません。
ただ、グラフをよく見るとこの考え方も明らかにおかしいのです。
なぜなら、その少し前の昭和11〜12年に、出生数がドーンと減少している時期があるからです。
(戦時中の空白の時期も普通に考えれば出生数は激減していそうですが、そこは確かなデータがないので割愛します)
この時期の減少幅は、先程の団塊の世代の増え幅と大差ありません。
仮に今、団塊の世代の出生増で死亡数が増加するのであれば、その数年前に死亡数が激減する時期があって然るべきです。
ではそうなっているのか?
いえ、なっていません。死亡数は徐々に増えているだけです。
つまり、出生数にかなり凸凹があっても、その人達が80歳でみんな亡くなるわけではなく、亡くなる歳はかなり分散する。結果としてそれらの出生のばらつきは死亡数にはほぼ反映されず、死亡数のグラフはなだらかな曲線を描く。ということです。
つまり、「団塊の世代が後期高齢者になったのだから当然」という説は、以上の理由により「理屈が通らない」ことが明白だと言っていいでしょう。