関税障壁としての「行政指導」

 では、なぜウーバーのタクシー配車サービスは日本で苦戦していると考えられるのか。

「ウーバーは世界各国でまずはサービスを始めたうえで各国政府と折り合いをつければいいと考えました。日本では日本社会の慣習を検討したうえで社会実験からサービスを始めました。福岡で無料のライドシェア実験を始めたのですが、結果としては当局による強い指導から実験を中止せざるを得ない状況に追い込まれます。ここは実に日本的だと思うのですが、法律上はウーバーのやろうとしたことは合法だったのです。法律ではお金をとる白タクは禁止しているのですが、お金をとらない無料のライドシェアは禁じていません。

 実際、かつてこんなことがありました。関西のMKタクシーが東京に進出しようとした際の話です。MKタクシーは格安サービスで関西で人気があったのですが、名古屋で500円タクシーを始めようと営業申請をしたのです。価格破壊されては困るということで当局はこの申請認可を渋りました。するとそれに抗議するかたちでMKタクシーは無料で名古屋でタクシーを運行します。無料タクシーは昔から合法だったのです。

 しかしウーバーは、日本には非関税障壁としての『行政指導』があるということを知りませんでした。『いずれお前たちは有料でライドシェアを始める前提で、無料で実験をしているのだろう。そんなのはダメだ』と役所から言われたのです。当局ににらまれたまま実験を強行すると日本での免許が下りなくなることを知らなかったのです。ウーバーが方針転換をしたことで、日本ではウーバーイーツを大々的に展開して成功しています。もし実験を中止せずに強行していたら、ウーバーイーツの自転車も徹底的に道路交通法違反で取り締まりを受けてサービスを中止させられていたでしょう。

 この行政指導は監督官庁によって温度差があります。産業振興を重視する経済産業省は比較的話し合いの余地が大きく、秩序を重視する金融庁は保守的です。国土交通省の場合は利権が大きいことからアメリカの私企業が勝手に公共交通のサービスを始めるのはそもそも難しい。ウーバーはその意味で、YouTubeやSpotify、Instagramとは監督官庁が違ったことが最大の障壁だったのでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

提供元・Business Journal

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