超人の秘密は鼻にある
なぜ「鼻に直接」新型コロナウイルスを注入されても、全く陽性反応を示さない人がいたのか?
ここからはわかりやすくするため、持続的に陽性反応を示した人々を低耐性、一過性の感染を起こした人を中耐性、全く陽性にならなかった人を高耐性と表現します。
分析にあたって研究者たちは、まず被験者の鼻から採取した細胞や血液を調べました。
すると高耐性の人と中耐性の人はウイルス注入後すぐに(1日目で)、鼻の粘膜組織で免疫物質の一種である「Ⅰ型インターフェロン」が放出されていることが判明しました。
Ⅰ型インターフェロンは免疫の警報システムであり、免疫細胞を活性化して感染した細胞を破壊するよう仕向ける役割を担っています。
一方で低耐性だった人々はⅠ型インターフェロンの応答が遅れており、感染後5日目になって初めて放出され始めたことがわかりました。
この結果は、耐性を持つ人々は最初にウイルスが入り込んだ鼻粘膜でウイルスが増える前に素早く排除できた可能性を示しています。
研究者たちは「ウイルス感染から24時間以内であれば、鼻の中にⅠ型インターフェロンを注入する処置が有効に働く可能性がある」と述べています。
ただ興味深いことに、Ⅰ型インターフェロンの量は高耐性より中耐性の人のほうが多かったことも判明しました。
どうやらⅠ型インターフェロンの量は単に多ければいいというわけではないようです。
ですが今回の研究で最も重要な点は別にあります。
高耐性と中耐性の人々は鼻粘膜と血液の両方において、感染が起こる前からHLA-DQA2と呼ばれる遺伝子の働きが高かったことが判明したのです。
以前に行われた研究では、新型コロナウイルスによる重症度が高い患者ではHLA-DQA2の発現が低かったと報告されています。
この結果は、耐性を持つ人の体は感染する前から日常的に、感染に備えてHLA-DQA2を多く生産していることを示しています。
また、これまでHLA-DQA2はT細胞の働きを助ける分子(MHCⅡ分子)として知られていましたが、これは感染後に役立つ仕組みです。
しかし今回発見されたHLA-DQA2は感染が起こる前から耐性を与える役割に関与していると考えられており、私たちがまだ知らない免疫システムの一翼を担っていることを示唆しています。
以上の結果から、新型コロナウイルスを鼻に直接入れられても平気だった人は「鼻の免疫力の高さ」「感染に対する体の事前の備え」の2つが上手く機能していると結論できます。
同様の仕組みは新型コロナウイルスだけでなく、他のウイルス感染に対しても機能していると考えられます。
これまで私たちは風邪などにかかるかどうかは運や確率、あるいは漠然と「免疫能力の差」と考えてきましたが、研究成果によって、より具体的な知識が得られました。
もし仕組みを理解して、高耐性の人々を真似られる薬が開発できれば、多くの人々を救うことができるでしょう。
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元論文
Human SARS-CoV-2 challenge uncovers local and systemic response dynamics
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07575-x
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部