定年退職後は現金収入が減る。そのため、持ち家がない場合は家賃が大きな負担となる。実際のところ、シルバー世代の家賃は平均でいくらくらいなのか。もしかして月5万円でも贅沢すぎ?

シニア単身世帯の約2割は賃貸暮らし

内閣府「令和4年版高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯の約8割が持ち家に住んでいる。ほかは借家住みだ。ざっくり言えば「持ち家8:賃貸2」といった割合と言える。

持ち家 公営・
都市再生機構(UR)
・公社の借家
民営借家 給与住宅 不詳
主世帯総数 61.2% 5.0% 28.5% 2.1% 3.3%
65歳以上の者の
いる主世帯
82.1% 6.5% 11.1% 0.2% 0.2%
65歳以上の
単身主世帯
66.2% 11.6% 21.7% 0.2% 0.3%
65歳以上の者のいる
夫婦のみの主世帯
87.4% 5.5% 6.9% 0.2% 0.1%
65歳以上の者のいる
その他の主世帯
88.9% 3.7% 7% 0.2% 0.1%
(内閣府「令和4年版高齢社会白書」を参考に筆者作成)

家賃5万円以上は少数派

総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」によると、借家の1ヵ月当たり家賃は平均5万5,675円だ。ただし、これは年齢別のデータではない。

定年退職後のシニア以降世代は、年金と労働収入両方があるとしても、家賃をなるべく減らしたいはずだ。そのため、これらの平均額を大きく超える家賃を払っているシニア以降世代の世帯は、少数派と考えていいだろう。

シニア世代にありがたい公営住宅

シニアの賃貸住宅事情を紐解くと、まず民間の賃貸物件にシニア世代が新規で入居するのはややハードルが高い。孤独死などの懸念があるからだ。そのため、公営住宅やUR賃貸住宅を選択する人が多くなる。

公営住宅は収入が少なく住宅に困っている人に対し、安い家賃で賃貸することを目的に、都道府県や市区町村が管理する住宅だ。

入居条件は「収入が少なく住宅に困っていること」であり、相場よりも安い家賃で住むことができる。入居後に収入が著しく減り、家賃の支払いが困難になった場合は、家賃の減免が認められることもある。

公営住宅の入居者の70%以上は、世帯収入が月10万4,000円以下。この範囲の世帯収入の入居者は、家賃算定基礎額(公営住宅の家賃を決定するための基準となる金額)3万4,400円を基準とし、それに立地や築年数、住宅の利便性などを考慮した補正額を加えた金額を家賃として納める。

URと「サ高住」も選択肢に

UR賃貸住宅は保証人が不要なので、シニア以降世代にとって契約のハードルが低い物件といえる。

URはシルバー世代の暮らしやすさに配慮したバリアフリー住宅(高齢者向け優良賃貸住宅)も提供しており、国とURがその家賃の一部を負担する仕組みがある。世帯の所得月額合計が15万8,000円以下の場合に家賃が減額される。

「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)も選択肢になる。ケアの専門家の常駐、安否確認サービス、生活相談サービスなどを提供し、シルバー世代が安心して暮らせる環境を整えた住宅だ。

「シニア×賃貸」にはメリットも

人生の後半を賃貸住宅で暮らすということに、何となく劣等感を感じる人もいるかもしれない。しかし、シニアの賃貸暮らしにはメリットもあるため、そこまで悲観的に捉える必要はない。

例えば、賃貸暮らしなら、養護老人ホームに入居したあとや自分が死んだあとの自宅の処分について、不安になる必要はない。

また、持ち家だと家の修繕などが必要になるが、賃貸暮らしなら基本的に大家に任せることができる。

持ち家のない人は民間の賃貸物件の他、公営住宅、UR、サ高住なども選択肢に入る。家賃と暮らしやすさのバランスを考慮してどこに住むか決めよう。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。